PLAYERS : MASAKI HARADA
原田 正規
MASAKI HARADA
コアのプロトライアル
原田の長女、コアがSリーグ※1のプロトライアルに初出場。14歳、春の挑戦。
※1 2024年よりスタートした国内最高峰のサーフィンプロリーグ。
文:高橋 淳
写真:飯田 健二
自宅から30分の試合会場へ
4月24日はあいにくの雨だった。西から低気圧が近づいてきている。この日は、原田の長女コアのプロトライアルが行われる。原田と妻のさとみ、コアの3人は夜が明ける早朝5時に会場の千葉・白里海岸に着いた。
風は東南東のオンショア※2。海面は荒れていて、けっしていい波とは言えない。サーフィンの大会において、波のコンディションは選べない。文字どおり、出たとこ勝負。サーフィンのスキルとともに、刻一刻と変化していく海への対応力も試される。
この日の海のリズムをつかもうと、コアはさっそくウェットスーツに着替えてパドルアウトした。
※2 海から岸に向かって吹く風。風が波頭を潰すため、ベストな条件ではない。
天気も海も荒れ模様。ふだんならばサーフィンすることをためらうような波でパフォーマンスすることを求められた今回のプロトライアル
この日の朝のコアは緊張の面持ち。さまざまなプレッシャーがのしかかる戦い
厳しい波とプロ合格の条件
6時に選手集合。コアのヒートは8時からだ。早朝よりも潮が引き、波はさらにジャンクになっている。
今回のトライアルでプロとなる条件はただひとつ「優勝」。コアが出場するロングボード女子のトライアルへの参加者は37名。3〜4人で15分戦うヒートを4回勝たなければならない。全日本サーフィン選手権大会※3で優勝経験のあるコアは、実力では出場者のなかでもトップクラス。しかし、この日の海が舞台では、運も大きく作用する。原田がヒート直前のコアにアドバイスを送る。
「スイッチを入れろ。オンショアは波を待ってちゃダメだ」
そして、試合が始まった。オンショアとロータイドの影響で波数が多く、コアはなかなか沖に出られない。ほかの選手が波に乗るなか、10分近くパドリングをしつづけてようやくアウトサイドへ。残り5分。ついに波をつかんだコアは、インサイドまでていねいに乗りつないでロングライド。1本のライディングで逆転に成功し、辛くもそのまま逃げきった。
※3 日本のアマチュアサーフィン最大の組織であるNSA(日本サーフィン連盟)が主催する全国大会。日本全国にある各支部の予選を勝ち抜いた選手が集まり、その年の日本一をかけて戦う。
ラウンド1のゼッケンを受け取るコア。試合モードにスイッチが入る瞬間
JPSA※4のロゴが光る小さな背中。中学3年生の大きなチャレンジ
※4 日本のプロツアーを主催する日本プロサーフィン連盟の略称。
インサイドまで乗り継ぎ、ハングファイブ※5をメイク。ヒヤヒヤする展開だったが、実力でラウンド1を勝ち上がった
※5 ノーズの先端に片足の指を掛けるテクニック。
フリーサーフィン中のアクシデント
じつはコアは、ひと月ほど前の練習中に怪我を負っていた。
「そんなに波のサイズはなかったけれど、ノーズに行ったときにいきなり波が掘れてきちゃって。そのまま巻かれて、肩がはずれたんです」
亜脱臼を起こしてしまい、サーフィンはしばらくおあずけ。だがその間もくじけることなくトレーニングに励み、プロトライアルの2週間前から海に復帰できた。
「(練習を再開したときは)ちょっと痛かったり、怖さも残ってた。でもプロテスト当日には治っていて、試合に集中できました」
写真提供:原田コア
亜脱臼をした直後のコア。「試合前に怪我をしてしまって少し焦ったけれど、家族のサポートがあったおかげで気持ちが強くなりました」
困難を乗り越え、ジャンクな波をきれいに乗りつなぎ優勝を目指す。プロトライアルはライブ配信もされていた
地道にポイントを重ね、決勝戦出場
ラウンド2は13時15分にスタート。潮が上げて若干風が弱まり、朝よりも波がよくなっている。ラッキーなことに、対戦相手のひとりが欠場。コアはハングファイブを入れたライディング1本で※63人ヒートをトップで勝利した。
調子を上げてきたコアは続くラウンド3もトップ通過。ファイナルへ駒を進める。原田がコアに喝を入れる。
「波が変わってきてるから、気を抜かないで臨機応変に対応するんだ。スープ※7に足すくわれないようにグッとこらえろ」
ファイナルは16時10分から。やみかけた雨がまた降り出し、オンショアがふたたび強まってきていた。
※6 ライディング1本の最高得点は10点。このプロトライアルでは、ベスト2スコアの合計点で勝者を決める。
※7 波が崩れたあとにできる白く泡だった部分。
海を見ながら、ヒート前のコアに真剣な表情でアドバイスする原田。家族のサポートは何より大きな励みになる
原田コア。中学生でプロデビュー
ヒートを重ねながら、この日の海とリズムを合わせたコアは強かった。むずかしいコンディションのなか、開始早々にいい波をつかみ5.83ポイントを出す。「自信に満ち溢れてるね」と原田がつぶやく。
決勝戦まで進んだ選手たちは、みんなそれなりの実力者。全員がスコアを重ねていく。1本の点数ではコアが頭抜けていたもののバックアップがなく、2本の合計でゼッケンレッドの大石 梨花がトップを走っている。その点差は1点にも満たず、コアがテイクオフをメイクし横に滑りさえすれば逆転できるほどわずか。風がさらに強まり、むずかしさが増していく。
残り1分半。コアが長い沈黙を破って波に乗った。そして、そのままカウントダウン……。雨が降りしきるビーチにホーンが鳴り響く。結果は、試合終了直前のライドで逆転。初出場のプロトライアルでコアはみごとに優勝を果たし、中学生プロサーファーとして華々しいデビューを飾った。●
決勝で見せたコアのノーズライド。厳しい波を舞台に実力を発揮して、ひと枠しかないプロへの切符を手に入れた
写真:高橋 淳
プロロングボーダー、原田コア誕生。歓喜のガッツポーズ
原田いわく「コアは持ってる。釣りに行っても、ひとりだけ釣れたりするんだ。全日本で勝った年はほかのハイレベルな大会でも優勝した
決勝が終わった途端、メディアがコアに駆け寄り取材、撮影を行った。プロフェッショナルの仲間入り。はにかむ様子はまだふつうの中学生。
メディアに囲まれる娘の晴れ姿をそばで見守る原田とさとみ。悪天候もいい思い出となって家族の心に刻まれる
試合後、コアは抱負を語った。「どんな波にも対応できるサーファーになって、最終的には海外でも活躍できるようなプロになりたいです」
POSTED : 2024-05-08