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東浪見キッズの週末 Part2

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MASAKI HARADA

 

東浪見キッズの週末

Part2

急激に発展を遂げたサーフタウン、一宮に暮らすサーフキッズの遊び方。

 

文:高橋 淳
写真:飯田 健二
水中写真:原田 正規

 

Part1はこちら>

近所の仲間とサーフセッション

 

春休みの週末。原田の長男カイマナとその友だち、ハルクとカイルは朝から原田家に集まっていた。うねりは十分にあり、オフショア※1となる南西の風が吹く予報。つまり、波がよくなりそうなのだ。

 

カイマナは東浪見小学校に通う6年生。ハルクは2歳年上だが、数年前から一緒にサーフィンを楽しんでいる仲間。カイマナと同級生のカイルはこの春に神奈川・川崎から千葉・一宮町東浪見に引っ越してきた。もちろん、理由はサーフィン。移住前から友だちだったが、家が近くなってからみんなで遊べる時間が増えた。

 

原田家から最寄りのサーフポイント、東浪見までは徒歩で行ける。だがこの日は風向きを考慮し、車で数分の釣ヶ崎海岸、通称志田下を見にいくことに。家の前でひとしきりじゃれ合い、原田の運転で海へと向かった。

 

 

※1 岸から海に向かって吹く風。風が海面を整えるため、強過ぎないかぎりサーフィンに適している。反対に海から岸に向かって吹くオンショアは風が波頭を潰すため、ベストな条件ではない。

志田下の駐車場に車を止めて波チェック。予想に反して、東南東のオンショアが吹き、海面はざわついていた

左からハルク、カイル、カイマナ。どのあたりで乗ろうか、真剣に波チェックをする

ポイントは志田下の堤防の南側に決定。風向きが合わないうえに潮が引きすぎていてむずかしいコンディションだったが、子どもたちは待ちきれないとばかりにすばやく着替えて海へ飛び込んだ

大会が好きなコンペティターでもあるカイル。アクションをきっちりとメイクしていく

ターンで波をつなぐハルク。玄人好みのラインを描くスタイリッシュなサーファーだ

原田とともに大きな波も経験し、仲間と切磋琢磨しながらメキメキと実力を伸ばしているカイマナ

東京オリンピックの会場、志田下

 

プロサーファーとして、一宮エリアをベースに30年来腕を磨いている原田はこう話す。

 

「東京オリンピックの会場になった志田下は昔から『サーフィン道場』として知られる日本一レベルが高いサーフスポット。そしてオリンピック開催をきっかけに、ここ一宮町はいっきに盛り上がった」

 

2020年以降、貸別荘として使われる一軒家が海岸線にたくさん建ち並ぶようになり観光地化。サーファーはもちろん、旅行者も多く訪れるようになった一宮町は日本有数のサーフタウンとなった。一年を通して波が豊富なため、以前からプロサーファーが全国から移り住む場所として有名だったが、よりサーフィンを中心に据えた近年の一宮町の発展は目覚ましい。

 

「子どもたちがサーフィンをするために移住する家族が増えた。学校や町がサーフィンを応援してくれているんだよ」

この日の志田下にはオリンピアンの大原洋人がサーフィンする姿もあった。これがサーフタウン一宮町の日常

志田下の駐車場がある場所は本来、西暦807年ごろから続くと伝えられている上総十二社祭りの祭典場。毎年9月13日には、お神輿が集まる。日本トップクラスのクオリティを誇るサーフポイントは神聖なビーチだ

廃校を利用したスケートパーク

 

ひとしきりサーフィンを楽しんだ子どもたちだが、まだ遊び足りない様子。そこで、車で20分ほど内陸に入った長南町にあるスケートパーク長南へ行くことにした。

 

廃校となった旧長男小学校の校庭跡地につくられたスケートパーク長南は去年オープンしたばかり。町営なため、入場料が200円と格安なのがうれしい。さらにペット同伴も可能なカフェレストラン、長南ドライブインやIT交流施設の長南集学校を併設しているため、家族連れでも過ごしやすい環境だ。

 

「ここができたおかげで、子どもたちは遊び場が増えて喜んでいる。東浪見ではサーフィン派、スケート派と好みが分かれているけれど、基本はみんな仲よしだよ」

ふたつのエリアを合わせて1000㎡ほどの広さを持つスケートパーク長南。技量やスタイルに関係なく、幅広いスケーターが楽しめるように万能性を重視してつくられたセクションが大きな魅力だ

3人のなかでいちばんスケートボードがうまいハルク。お父さんがムラサキスポーツで働いている影響も大きい

カイマナも波がないときを中心にスケートボードを楽しんでいる。「サーフィンの方が好きだけど、スケートも好き」

カイルは観客に徹する。「ケガしてサーフィンができないのは嫌だから」と、自分のスタンスをぶらさなかった

疲れ知らずの子どもたち

 

長南ドライブインで昼食をすませて帰宅。風と潮の具合を見るかぎり、夕方は朝よりも波がよくなりそうな気配だ。春分を過ぎて、日がずいぶんと伸びた。風が弱くなる夕暮れ時まで待とうと、しばしの休憩時間。

 

16時。急に風が弱くなった。狙う波は志田下のメインブレイク。誰とはなしにサーフィンのギアを車に積み込み、海へと車を走らせた。

休憩中も3人の遊びは止まらない。野球をしながら暇つぶし

サーフィン道場のグットウェイブ

 

案の定、志田下の波は整っていた。ときおりチューブが巻いている。サイズは胸〜頭。大原 洋人をはじめ、一宮界隈に住むプロサーファーやトップアマチュアがピーク※2に集結。カイマナ、ハルク、カイルもすぐさま着替えて「サーフィン道場」のセッションに参加した。

 

こうなると、半端なレベルのサーファーは1本たりとも波をつかめない。しかしローカルキッズの3人はテンポよくライディングを繰り返す。日が暮れるまでうねりは絶え間なくやってきてはブレイクし、サーファーたちは思い思いに波の斜面にラインを描く。

 

東京オリンピック開催に際して志田下の駐車場は整備され、ウォシュレット付きのトイレや有料温水シャワーを完備する建屋もできた。コインロッカーやレンタルサイクルもある。プロサーファーによるコーチングもひんぱんに行われるようになり、スキルアップを目指すサーファーたちにとってこの上ない条件がそろっている。そんなサーフィン道場から名乗りをあげようと、ハイレベルなサーファーが次々と移住。そうして、一宮エリアをベースとするサーファーたちのレベルアップは加速していく。

 

原田はビーチでカイマナたちのサーフィンを見守っている。すでに日は落ち、波が見えなくなってきているが、3人は上がってこない。穏やかな表情をした原田は、こうつぶやいた。

 

「サーフィンがうまくなりたい子どもたちにとってすごくいい環境だと思う。でも、30年前のこのエリアはもっと波がよかったんだ。今ほど護岸されていなかったしね。町は静かで、冬時期はとくに日が落ちるのが早いと感じた」●

 

 

※2 波がブレイクしはじめる場所。

スピーディーなカイルのリッピング。水を得た魚のよう

スリリングな掘れたセクションで波の懐に入り込むカイマナ

整備された志田下のビーチサイドでは、親御さんたちが子どものサーフィンを見守る。サーフタウンならではの光景だ

ハルクのサーフィンは朝のセッションよりもあきらかに冴えていた

真っ暗になるまで海に入っていた3人。サーフタウンのローカルキッズの遊び方

POSTED : 2024-04-22