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I LOV IT Part 2

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MASAKI HARADA

 

I LOV IT Part 2

チボリサーフショップで交わす、答えのない会話。次世代につなぐカルチャーについて。

 

文:高橋 淳

写真:飯田 健二(クレジットのある写真を除く)

Part1はこちら>

 

原田 正規(以下、MH):サーフボードをつくるようになったきっかけはなんですか?
小野塚 智之(以下、TO):自分で乗る板を自分でつくりたいから。ほかのシェイパーと相談しながらつくっても、なかなか思い通りにいかないからさ。だったらやってみようかなって。
MH:自分がシェイプしたボードで波に乗る感覚は特別ですよね。
TO:洋服も着たいものを自分でつくってるから、その延長だと思う。
MH:シェイピング以外の工程も自分でやりますか?
TO:自分で乗るボードはラミネートもサンディングもやるよ。プロダクトのサンディングは信頼の置けるサンディングマンに頼んでる。
MH:おれはシェイプだけです。
TO:なんで?
MH:そこまで追求する時間があるなら、もっとサーフィンをしたいですね。フィンのポジションはぜったいに自分で決めたいから、フィンボックスの穴を掘ることはあります。

MH:サーフボードづくりをしていて、うまくいかないときはありますか?
TO:そりゃあ「ぜんぜんイメージと違うじゃん」ってときもあるよ。だけど、乗ってみて「思ったとおりにできた」ってときもあるからおもしろいよね。
MH:それがヤバいですよね。ほかのボードに乗りたいと思わなくなる。
TO:おれも一時期、自分のつくったボード以外まったく乗らなかった。けれども最近はほかのブランドのボードも乗るようにしてんだよ。いろんなシェイパーのいいところを知りたい。でもね、「これすごく人気なんですよ」っていうモデルはだいたい遅い。
MH:そう!あれ、なんなんですかね?
TO:お前わかるだろ? ただ、安定していてそつがないんだよな。ずっと同じスピードで乗れるの。「みんなほしいのはこれなんだな」っていうことがわかった。おれたちがほしい性能とは違ったりする。

MH:オノゲくんは昔からヴィンテージバイクにも乗っています。どんなバイクを持ってますか?
TO:3台。(ハーレーの)パンヘッドとアーリーショベル。あとトライアンフ。
MH:トライアンフは何年式ですか?
TO:1962年の650cc。もう5年目くらい乗ってる。手もとに来たときはリジッドのチョッパーでさ。「こんなんじゃねえんだよ」と思ったけど、とりあえずエンジンが欲しかったからさ。それでスイングアームを載せ替えて、オフロードっぽくした。この辺でのちょっとした足に最高だよ。畑に行くときにもよく乗ってる。
MH:畑もやるんですね。
TO:レモンをつくってる。30本の木を植えてさ。今シーズンで2年目。地元の方との縁があって600坪ほどの農地を借りられることになったから、無農薬でやってみたんだ。いろんな人の協力があって、なんとか畑になってる(笑)
MH:実はなりました?
TO:なったよ。この冬は実を全部取って幹を太くする段階。
MH:なんでレモンなんですか?
TO:おれの家にレモンがなってるんだよ。もう17年目の木。今シーズンはそんなにとれなかったけど、去年は100個ぐらいとれた。それで「レモンならつくれる」っていう変な自信があって。東京でイタリアンレストランとかフレンチレストランをやってる友だちにあげるとすごく喜んでくれる。こんなに喜ばれるんだったらつくろうと思って。おもしろい。かわいいよ、植物。

MH:チボリのランはどんな人が集まってるんですか?
TO:仕事も歳もさまざまだけど、だいたいみんなこの辺でサーフィンしてるチボリの仲間たち。だから「波のよくないときにやりたいよな」って話してる。
MH:それはぜったいですね(笑)。波がいい日にバイクに乗ってキャンプに行ったって落ち着かない。
TO:毎年だいたい雨が降る。帰りなんて泥だらけのびしょびしょでさ。全員ヴィンテージのバイクだろ。もう最悪だぜ。だけどみんなそれでも好きみたい。

写真提供:小野塚 智之

写真提供:小野塚 智之

写真提供:小野塚 智之

MH:亜蓮(小野塚の長男)もバイクをいじってますよね。とくに伝えていることはありますか?
TO:モノを大事にすることは強く教えてきた。道具ひとつだって粗末に扱えば、ふつうの親だったら引くぐらいおれは怒る。そこに対しては敏感なの。
MH:オノゲくんは昔からそうですよね。
TO:家にあるのは汚いモノばかりだから、何も知らない子どもなら大事にしようと思わない。それはいやなんだよ。「大事にされてきたから、こんなに古いものが今ここにあるんだろ」って。そういうことを教えたい。新しいものに買い替えることよりも、愛着を持ってずっと使いつづけることのほうがおれにとっては豊かなの。
MH:その感性はずっと変わらないですね。
TO:あと子どもたちに教えているのは旅。おれは若いころ旅がしたくてしょうがなかった。稼いで、とにかくすぐ海外に出たかった。帰ってきたら自分が膨らんでるのがわかるんだよ。だからあいつらには、どんどん外に出て吸収してもらいたい。ひとりで知らない場所に行って、帰ってきたときには大きくなっていることに自分で気づいてほしい。それが旅の醍醐味じゃん。
MH:然(小野塚の次男)が最近よく動いてますね。
TO:スイッチ入っちゃったね。動きっぱなしだよ。パチタンに行って帰ってきて、四国に行って帰ってきて、このあいだカウアイに行って帰ってきて、今はニセコに行っちゃった。3月まで行くって。ウェットスーツと板持って。然や亜蓮と一緒に育った東浪見出身の子どもたちはみんなつねに旅をしてる。自分でバイトして稼いでね。然と亜蓮を引っ張ってくれるいい仲間がいるんだ。あいつらが1年のうち家にいるのはバイトか学校があるとき。あとこのエリアの波がいいときくらいだよ(笑)


写真:朴 玉順


写真:三上 晃司(Maverick Figures)

TO:亜蓮も昨日までおれと一緒に山にいた。あいつは船乗りになるために航海士の学校を出た。卒業後に7か月半の航海も経験してきたんだ。そして海洋技師と航海士の国家試験に合格して帰ってきたから、当面は自由にサーフィンして過ごすみたいだね。
MH:じゃあ、亜蓮がいれば世界をまわれるってことですか?
TO:そう。パスポートを持たなくても、陸地に降りなきゃどこでも行ける。だから世界中どこでも波乗りできる。こうなったらもう、おれが船買うしかないと本気で思ってる。最近はあいつらに逆にプッシュされてる感じがするよ。

亜蓮
写真提供:小野塚 智之

亜蓮
写真:ペドロ・ゴメス

MH:オノゲくんみたいにズドンと千葉のこのエリア(岬・一宮)に腰を据えている人はなかなかいない。
TO:それは自分ではわからない。
MH:はたから見たらそうです。そして、何十年後のカルチャーにつながることをしてると思う。
TO:息子たちには「おれはここで育ったんだ!」って思ってもらいたい。東京じゃ知れないことを知ってもらいたい。おれはこの地域にプライドを持ってるからさ。あいつらは東京の友だちともつながってる。それで彼らを呼んで、みんなで遊んで喜ぶんだ。ここのよさを知ってもらいたくていろんなことをするの。そうして違うところに暮らす友だちと共感が生まれて、海外で待ち合わせして旅をすることがあたりまえの環境になったら、このエリアの子たちみんなにとっていいんじゃないかな。おれたちがガキのころここに移り住んだ理由も「成田空港は近いし、波はあるし」っていうことだったじゃん。
MH:ほかの遊びは何もなかったですよね。
TO:今は選択肢が多少増えたけれど、まだ雇用も少ないし、若い子にとっては刺激が足りないから出ていっちゃうんだよな。そばにいる大人たちがおもしろいことを用意しないと。もうおれたちの番じゃないからさ。コアちゃん(原田の長女)なんてお前より大人じゃん。
MH:そうかもね。
TO:「かも」じゃないよ。ぜったいそう。この前コアちゃんとしゃべってて、「彼女は正規を越えたんだな」って思ったよ。
MH:大人っぽく振る舞われてるだけだって(笑)。サーファーとしてはまだ「何やってんだよ!」って感じですよ!
TO:やだやだ(笑)。そんなこと言ってると、「お父さん、スタイルが違うんだよね。スタンス広め〜」って言われるよ。

コア
写真提供:原田 正規

TO:こうして50歳になるまでのあいだに、先輩やまわりの人がいて今がある。おれは若くして親を亡くしたから「まわりに生かされてきた」っていう意識が強いんだよ。
MH:それで身のまわりにいる若い子たちにつなげることをいつも考えてるんですね。
TO:おれには今の時代の全部がいいとは思えない。昔のいいところもあるし、でも昔の悪いとこもある。そこをうまくならしていく。とはいえ、サーフィンやスケートボード、スノーボードはやっぱりカウンターカルチャーじゃん。今はスポーツになっちゃったけどそこは大事。その感覚で生きてきたおれたちと、今の多くの子たちの見方はぜんぜん違うと思うよ。たとえば、サーフィンやスケートをスクールから始めるなんて考えもしなかった。

写真:SOS

MH:仕事としてサーフレッスンをやってますが、おれもいまだに「本当に必要なのかな?」って思う部分があります。
TO:正直言えば、おれたちのバックボーンからしたらぜったいにいらない。本来、サーフィンはそうやって覚えるものじゃないからさ。おれたちはいいやり方で覚えられたと思うよ。
MH:でもスクールの存在は悪いことばかりじゃないとも思った。逆におれが気づいてないことをいっぱい教わるんですよ。
TO:教えると、教わるんだよな。⚫︎

POSTED : 2024-02-06