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I LOV IT Part 1

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MASAKI HARADA

 

I LOV IT Part 1

原田が影響を受けた人物のひとり、オノゲこと小野塚 智之とカジュアルかつディープなトークセッション。

 

文:高橋 淳

写真:飯田 健二(クレジットのある写真を除く)

原田 正規(以下、MH):オノゲくんの現在の暮らしを教えてください。
小野塚 智之(以下、TO):チボリサーフショップ(tivoLi surf shop)をやって、サイコム(Psicom)というブランド名で洋服をつくりながらサーフボードのシェイプをしてる。あとサーフィンをして、冬はスノーボードをしに山にも行ってる。それだけだよ。
MH:チボリを始めたのはいつごろですか?
TO:もう 6 年ぐらい経つ。「チボリサーフショップ」って名づけた理由は「サーフショップ」って言葉を使いたかっただけ。でもいちおう NSA※1 にも登録してるんだ。去年はおれも支部予選※2 にも出た。マスタークラス※3 で優勝したよ。
MH:オノゲくんの仕事のコンセプトは?
TO:好きなモノをつくる。正規と出会ってから 30 年近いけど、ずっと何かをつくってるだろ?
MH:そうですね。
TO:買ってくれる、期待してくれる人がいるかぎりはやりつづけたい。服に関してもそうだし、サーフボードもそう。期待はつねに超えたいよね。喜んでもらって、もっといろんなモノをつくりたい。

 

 

※1 日本サーフィン連盟の略称。国際サーフィン連盟、日本オリンピック委員会、日本ワールドゲームズ協会に加盟している組織。
※2 NSA 主催の全日本サーフィン選手権大会に出場するための予選。日本中にある各支部ごとに開催され、上位者が本選に出場できる。
※3 45 歳~51 歳を対象としたクラス。

小野塚 智之(おのづか ともゆき) ●1973 年 4 月 17 日生まれ。東京都足立区出身、千葉県いすみ市岬町在住。12 歳のときにサーフィンと出会 う。20 代でコンテストシーンから離れ、グッドウェイブに乗ることを追求。東京のストリートブランドのデザイナーとして仕事をしながら旅に重きを置く暮らしを続ける。2017 年にチボリサーフショップとサイコムをスタート。自身のバックボーンであるカルチャーとしてのサーフィンを表現している。
写真:高橋 賢勇

MH:サイコムはサーフボードのブランドでもあるんですか?
TO:そう。最初はサーフボード用のロゴがなかったんだよ。鉛筆のサインだけで。だけどそれじゃなんだなと思って、サイコムのロゴを入れてあげたの。サーフボードに関しては卸売もやらないし、洋服のディーラーの数も多く はない。今の感じで、本当に好きだと思えるモノをつくっていければいい。

MH:自分でブランドをやる前のオノゲくんは、東京のストリートブランドで働いていました。千葉から東京まで通いながら、ものすごくサーフィンをしてたじゃないですか? おれだったら仕事に集中して、あんなにサーフィンをしないと思ったんですが。
TO:サーフィンがモチベーションなんだと思う。とはいえ「仕事八割、サーフィン二割」みたいな生活だったよ。おれからしたらね。ただ、いい波の日はかならずやりたい。そこは自分の「ライフ」として決めてるわけだから。好きなことを納得できるようにやるために仕事をしてる。
MH:昔からオノゲくんは考え方が違うと思ってました。それがなぜなのか、ずっと聞きたかった。まわりにプロサーファーはたくさんいるけど、いい意味でみんなよりもキレてるじゃないですか。
TO:サーフィンが好きなことは一緒でも、目的が違ったんじゃない。
MH
:目的とは?
TO:いい波を求めてずっとサーフィンを続けていくこと。「優勝」とか答えを出すんじゃなくて。おれがやるサーフィンには、答えなんか一生出てこない。その時点でそう考えていたと思うよ。
MH:つねに考えてたってことですか?
TO:考えてた。だから試合にフォーカスすることをやめるのも早かったじゃん。たぶん育った環境が影響してるんじゃないかな。後ろを向いても帰るところがない。今ここにある現状だけが自分の居場所だった。「地元に帰って……」っていうのはおれのなかではなかったからさ。

MH:仲間で山登りに行ったとき、ひとりでどんどん行っちゃったことがありましたよね。何かに取り憑かれたかのように。オノゲくんはみんなと歩調を合わせて遊ぶ感じじゃなかった。「なんでこの人こんな焦ってんだろう?」って思ってました。それだけいろいろ考えてたということですよね。
TO:正直言って、今も焦ってるよ。おれは 50 歳。自分の人生、あと 30 年とか 20 年しかない。ヘタすりゃ明日逝ってもおかしくないくらいの年齢だよ。そう考えたら、やりたいことやっておきたいじゃん。おれの親父は 47歳、おふくろは 42 歳で亡くなっている。おれが 5 歳のときに親父が死んで、6 歳のときにおふくろが死んでる の。今考えると、だから若いころも焦ってたのかもしれない。おれもその歳までしか生きられないんじゃないかって。でも 3 年前、自分が 47 歳を越えたときに「親父と同じ歳に死なないんだ」と思った。同時に(長男の)亜蓮が船乗りの高校に入学した。そこで頭のなかが若干変わった。「おれは親父とおふくろとは違ったんだな」って。でもね、これは気質だね。せっかちなんだよ。

MH:格好よくてせっかちな先輩はほかにもいて、共通してるのは、若いころに尋常じゃない遊び方をしてること。寝ないで遊ぶんですよね。
TO:起きちゃうんだもん。「ヤベー!今日始まる!」って(笑)。今日だって 5 時から動いてるよ。ここ 10 年くらい、冬はよく寝るようになったけど。
MH:千葉じゃないところならソワソワしないで寝られるんじゃないですか。九州とか。
TO:お前の地元(九州・佐賀)じゃ寝させてくれなかったけどな。ひどかっただろ。「地元の集まりだから来てください」って言うから行ったら、自分はさっさと帰って寝ちゃって。おれは初めて会った正規の先輩たちと 4 時ぐらいまでずっと飲んでた。それで朝になって、招待されてたイベントにベロベロで行ったら「ふつう、人が呼んだイベントにこんな酔っぱらってこないでしょ。失礼な」みたいなこと言ってさ。「こいつの頭のなかはどうなってんだろう」って思ったよ。正規はよく怒られてたよな。
MH:まあね(笑)。そのへんはやり合ってきましたからね。
TO:おもしろかったよな。年上のおじさんたちを怒らせてさ。
MH:怒られるまでぜったい悪ふざけをやめなかった。

TO:今の子たちは本当に礼儀正しいよね。もっと生意気でもいいのに。
MH:やり合ってみないとわかり合えないですからね。だけど今の子たちはまったく違った感性も持ってるから、一概にはなんとも言えない。
TO:そう。悪いわけじゃなくてさ。今の子は今の子たちで、おれたちよりぜんぜん優れてるもんね。いろいろ知ってるし、ノウハウ持ってるしさ。おれたちのころはサーフィンなんかろくでもないヤツがやる遊びだった。もろにカウンターカルチャーでさ。ストリートみたいなもんじゃん、もともとサーフィンの世界って。

MH:オノゲくんはファッション業界やストリートカルチャーのなかにも身を置いてきました。そのうえで、やっぱりサーフィンがいちばんなんですね。
TO:さっきも話したけど、サーフィンがモチベーションなんだよ。サーフィンやったあとのあのテンションあるじゃん。いい波やったあとの安心感というか。
MH:サーファーはみんなそこにハマってますよね。
TO:ぜいたくするよりも、いい波に乗っていたい。そこの気持ちはやっぱり強いんだ。けっきょくそこに戻ってくるの。
MH:ぜいたくできたとしても、オノゲくんはしないですよね。
TO:シンプルな食事がもともと好きだから、毎日レストランに行くより家の飯がいい。車だって、豪華さより実用性をとる。この地域に合ったね。見てみなよ。あのマツダを買って本気で喜んでるんだから。 1 年半ぐらいマジで探してさ。おれは古くて味のあるものが好きなんだよ。

MH:サーフボードにしても、昔から古い板を引っ張りだして乗ってましたよね。
TO:あの乗りにくさで、自分が思い描くいい波をスコアすること。そこにハマってたから。あの時期があって、今の自分のサーフィンのかたちがある。ハイパフォーマンスショートボードのほうがぜんぜん乗りやすいと思うけ ど、そこじゃ満足しないんだよね。ちょっと乗りづらいボードで、みんなと同じきわどい波を共有するのがおもしろい。リスキーだけど、それがいいんだよ。だからサーフィンと仕事を両立できたのかもしれない。スポーツじゃなかったら、おれのなかでサーフィンは。

MH:今現在のオノゲくんは洋服をつくってサーフボードをつくって、お店をやって、さらにサーフィンをしてスノーボードをして、釣りもやってバイクも乗って…… 時間がないじゃないですか。
TO:時間ない。去年山に没頭しすぎちゃって、怠けたわけじゃないけど本当に時間が足りなくなったんだよ。それから 9 か月間、人生で初めて出張以外にここから一度も動かなかった。勝浦で 2~3 回いい波やれたくらいで。
MH:結果は出したんですか。
TO:取り戻したよ。やるしかないじゃん。
MH:「やるしかない」って言っても、好きなモノを自分で生産して販売してすべてを成り立たせるって、なかなかできないですよね。でもそれで生活がまわったら、本当におもしろい。
TO:「理想的じゃん」って思うかもしれないけど、それはそれで大変だよ。だけど、好きなことをやれてるなら、大変なこともがまんできるでしょ。サーフィンだってそうじゃん。「なんでそんな死ぬほどすごい波でやれるの?」って聞かれても「好きだから」。「こんな寒いのによく入るね」「好きだから」。全部好きだからじゃん、おれたちは。だから「tivoLi(チボリ)」っていうんだよ。知ってる? 逆から読むと「i Lov it」
MH:本当だ!

POSTED : 2024-01-24