PLAYERS : EMA KAWAKAMI
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
世界への一歩
Part 1
ローマ大会への切符を手に入れる。大きな目標に向かい、ホームパークでのコンテストに参戦。
文、写真:河上 竜平
世界につながるホームパークの戦い
11月25日、JSF※1主催のウィングラムカップ2023が開催された。会場はホームのジースケートパークだ。このコンテストツアーは全3戦。内2戦の合計得点の上位者が2024年9月にイタリア・ローマで開催されるワールドスケートゲームズ※2に出場できる。今大会は予選第一戦目。エマの出場するエキスパートクラスは有名なスケーターがそろっている。
受付開始は午前10時半。駐車場が混雑する可能性があるので、9時半に到着するようにジースケートパークに向かう。エマは前日から泊まりにきている同じエキスパートクラスで出場する友だちの哲平くんと一緒にいるため、終始リラックスモードだ。
受付をすませ、軽く準備体操をしてからさっそくウォーミングアップを開始する。大会当日にバーチカルを滑れるのは公開練習時のみとなっている。エマはボウルやランプを使って体を動かした。
「予選のランは余裕やけど、決勝のランはむずかしい。練習もがんばった。(決勝では)ぜったい決めたい。」
※1 日本スケートボーディング連盟の略称。
※2 ワールドスケート国際連盟によって行われている、あらゆるローラースポーツ分野を含んだ国際的なマルチスポーツイベント。隔年で開催される。
会場がオープンするやいなやウォーミングアップ。エマはすぐにランプで滑り出した
公開練習と予選。余裕でメイク
いよいよコンテストが始まる。まずは男女混合オープンクラスの練習、そして予選決勝が行われた。その間もエマは外で滑りながら、体を冷やさないように、集中してウォーミングアップを続ける。
「みんながんばってるな。おれも早くバーチ滑りたいなー!」
そして、エキスパートクラスの25分間の公開練習が始まった。エマに緊張する様子はない。試合でやる予定のルーティンの前に軽く3本程度滑ってから、予選用のルーティンを行う。精度の高いルーティンをミスすることなく2本メイク。残りの時間は決勝用のルーティンに組み込んでいるフリップボディバリアル540※3の練習を重ねた。集中しているからか、いつもよりメイク率が高い。
ついにエキスパートクラスの予選がスタート。30秒のランを3本滑り、そのうちもっともも高かった得点で競い合う。予選用のルーティンは、ほとんどミスすることがない構成だ。3本あればかならずメイクできる。エマとの打ち合わせはこうだ。
「1本目で成功すれば、残りの2本はアドリブで滑る。ただし、フリップボディバリアル540をかならず入れて、決勝用の練習をする」
予想どおりエマは1本目でメイクし、80点台をマークする。残りの2本もフリップボディバリアル540を入れたルーティンをアドリブで滑り成功。2本目3本目をともに70点台をスコアした。最終的に80点台を出したのはエマひとり。予選を1位通過といういいスタートを切った。
「少しだけ緊張した。でも1本目で成功したから、安心して残り2本でフリップボディバリアル540の練習ができてよかった」と、エマは淡々と決勝を見据える。
※3 空中でボードを縦に1回転、お腹側へ1回転させながら、体を1回転半させるトリック。
誰よりも早く公開練習に入ろうとする。練習の場で目立つこともモチベーションアップには欠かせない
ヒーロー、ギー・クーリーに捧げるルーティン
昼食を挟んで、女子のエキスパートクラスがスタート。エマは外で軽くウォーミングアップを始めた。そこで、前日から撮影に来ていたギー・クーリーが登場した。「エマのコンテストを見にいくよ!」とは聞いていたが、自分のヒーローが本当に会いにきてくれて、エマは大喜びだ。
「ほんまに来てくれるんや。本気でがんばる!」
バーチカルのコンテストに、Xゲームズ※4や世界を舞台に活躍するスケーターが現れたのだから、会場も沸いていた。決勝のルーティンは、エマのあこがれであるギー・クーリーをオマージュしたものだ。それを本人に目の前で見てもらえるのだから、エマもいっきにテンションが上がっていた。
決勝のレギュレーションはラン2本とベストトリック3本。ランは30秒のルーティンで採点され、ベストトリックは1つのトリックで採点される。
ランのルーティンは決まっている。ベストトリックをどうするかエマに聞く。
「900を連続でする」
本来であれば、連続トリックはひとつのトリックとしてしか判断されないうえに、ランで使用したトリックをもう一度すると減点される。だがエマは続けてこう言った。
「連続900は世界で誰もやっていない。それに、ギー・クーリーに見てもらうチャンスはなかなかないから、900を連続でする」
別のトリックも用意していたが、エマの判断は「やりたいことをやる」。それは、スケーターとして大切な心意気だ。
※4 さまざまなエクストリームスポーツを集めて夏と冬の年2回開催される世界最大級の競技大会。
ギー・クーリーと記念撮影。「『エマ』と呼んでくれた。自分のことを覚えてくれていてうれしかった」
ギーと一緒に女子の試合を観戦。言葉は通じないが、笑顔で気持ちはわかり合える
POSTED : 2023-12-12