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最終戦2023 Part 2

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MASAKI HARADA

 

最終戦2023

Part 2

 

JPSA※1シニアツアー最終戦、あくがれシニアプロ日向の結末。そしてプロサーファー、原田 正規の心の奥にあるもの。

※1 日本のプロツアーを主催する日本プロサーフィン連盟の略称。

 

文:高橋 淳
写真:飯田 健二

試合当日。夜明けのワンセッション

 

10月23日、決戦の日。原田が宿を出たのは5時20分。一見、空は真っ暗だが、東の空が明るんできている。ホットコーヒーを手に、お倉ヶ浜に到着するなり波をチェック。まだよく見えないが、サイズは昨日よりあるかないか……。10分後、少し明るくなってきたころにようやく腰くらいのセットが入った。もっと近くで波を見ようと、ビーチサイドまで近づいていく。

 

「(選手集合は)6時半だよね? ちょっと入ってきます」

 

わずかな時間も惜しい。そう言わんばかりに原田はすぐさまフルスーツに足を滑り込ませ、海に向かって駆けていった。

波の宝庫、宮崎ではありえないほど小さな波。しかし原田は気持ちを奮い立たせ、勝ちにいく姿勢を崩さない

このあとすぐに始まるヒートでのサーフィンを想定して、今あるすべてを結びつけていく。「(サーフボードを)しごいて、しごいて、当てて。イメージはできた」

ウォーミングアップの海上がり、なお波を見つめつづける目に気迫が宿る

小波で争う厳しいヒート

 

6時半、朝日に照らされた本部テントに選手たちが集まる。依然としてうねりは小さいままだ。この日は小潮。潮が引いている早朝の波はいちだんと力がない。7時からヒートが始まる予定だったが、上げ潮を待とうと8時に再度集合する運びとなった。

 

もどかしい待ち時間を経て、ついに8時20分から試合開始のコールが出た。波数が少ないコンディションを考慮し、通常よりも少し長めの23分ヒートで戦う。原田の出番は3ヒート目だ。対戦相手はJPSAショートボードツアーのグランドチャンピオンをともに3回獲得している河野 正和と浦山 哲也(浦山はシニアツアー初年度のグランドチャンピオンでもある)。そして今年のシニアツアー初戦のチャンピオンであり宮崎ローカルの遠田 真央という、このうえなく濃いメンツだ。小波が舞台の試合を見ながら自分のヒートを待つ原田は、5分ごとにため息ついている。

 

「この波でこの緊張感、いやだな」

サイズこそないものの、きれいにブレイクしていくお倉ヶ浜の波。風はオフショア※2で海面はクリーン。勝つためのポイントは、数少ないセットの波をつかむこと

※2 岸から海に向かって吹く風のこと。風が海面を整えるため、基本的にはサーフィンをするのに適している。

勝負が始まる。ふだん会えば親しい相手とのあいだになんとも言えない張り詰めた空気が漂う

まさかのダブルインターフェア

 

波のサイズは膝、たまのセットは腰くらい。潮が上げたため少しだけ波の厚さが増したが、波数はやや減っている。そんなコンディションのなか、原田のヒートが始まった。

 

5分経過。波が割れる気配はまったくなく、全員ノーライド。沖でサーフボードにまたがりただ待つばかり。それでも原田は波が来ることを信じて、いちばんアウトサイドに陣取っている。ようやくブレイクした最初の波に乗ったのは原田だった。しかし、けっしてグッドウェイブとは言えない波でのショートライド。河野、浦山も小さく短い波に苦戦するところ、遠田がインサイドまで乗りつないで試合をリードする。その後も原田は積極的に波をつかむが、1点代※3と点数が伸びない。

 

そして、ついにヒートが大きく動いた。浦山がつかんだ波に対し、後ろから原田が追い上げるかのようにテイクオフ。このアクションにより、原田はインターフェア(妨害)のジャッジを受けてしまったのだ。JPSAの試合は、各選手のベスト2ウェイブ、つまり得点が高いほうから2本の合計点で競い合う。インターフェアを犯すとそのうち1本がノーカウントになり、圧倒的に不利になってしまう。

 

残り2分。一発逆転を狙うしかない原田の近くにセットが入った。懸命にパドリングする原田。だがその奥から波に乗ったのは、河野だった。気づいた原田はその波を見送る。そこで、無慈悲なジャッジメント。ふたたびインターフェアのコールが鳴り響く。十分に距離をとっていたと思われる原田のパドリングが河野のライディングを妨害したというのだ。

 

「原田選手、海から上がってください」

 

2本がノーカウントとなり万事休す。試合終了のホーンがなる前に、原田の最終戦は終わった。

 

 

※3 ライディング1本の最高得点は10点。

ヒート中の原田のライディング。緩慢な波にはパワフルなサーフィンを繰り出す余地がない。新島戦に続き、初戦敗退を喫してしまった

「この歳になって人前で恥かいてね。ここは地元九州。たくさんの知り合いが観てる。ライブ中継で佐賀の人もみんな観てるから。それでダブルインターフェアでしょ。仲間は『マサキ』って笑って、温かいけど……」

内省。過去の自分との戦い

 

2023年、無念の最終戦を終えた原田はこう語った。

 

「ベストは尽くした。昔のおれだったら、『こんな波じゃやらないでしょ』って試合を投げていたはず。格好つけてたわけじゃない。若いころは『実力を出せない波ではサーフィンをしたくない』という気持ちがとにかく強かった」

 

そんな原田のキャラクターはかつてのサーフィン界に受け入れられ、異彩を放つハードコアなプロサーファーとして人気を呼んだ。そして、波がよくなればなるほど爆発力を増すサーフィンを武器に選手としても十分な実績を残してきた。原田はアマチュア時代に日本代表として世界戦で戦い、JPSAの試合で優勝し、世界最高峰のプロツアーであるWCT戦に出場した経歴を持つのだ。

 

「でも完全にフィーリングでやってたからね。きちんと考えている人とファイナルで当たると急に空気が違ったことを覚えている。それで河野さんに勝てなかった試合もある。しっかり準備をして、作戦を立てて勝ちにいくという当たり前のことを今までやってこなかった。そんな自分が、心のどこかでいやだった」

 

一線を退き、サーフィン以外の仕事に従事していたころ、原田は後悔にさいなまれていたという。最初の年はがまんできた。でも2年が過ぎ、3年目になったときには、仕事を続けることができなかった。

 

「『まじめにサーフィンに取り組みたい』という気持ちがずっと心のなかにあったんだよね。プロサーファーとしての悔いを消化できれば、たとえほかの仕事に就いたとしても納得してやれる。その気持ちがプロシーンに戻ってきた大きな理由。子どもの未来のためにという思いもあるけれど、自分の心を掘り下げると、そこがやっぱり大きい。だから今は、どんな波でも勝ちたい」

シビアな戦いとなったあくがれシニアプロ日向を制した進藤 晃。セルフシェイプのツインフィンで誰よりもスピードに乗っていた

進藤は昨年の今大会のウィナーでもある。セミファイナル、ファイナルのここ一番という場面にやってきたセットの波とともに、2連覇の栄光をつかみとった

2023年JPSAシニアツアーのグランドチャンピオンは今大会を3位でフィニッシュした牛越 峰統に決定

映えあるトロフィーを手にする牛越。今大会の結果によりグランドチャンピオンを逃した昨年の雪辱をみごとに果たした

大会終了後、尊敬する先輩を讃えに駆けつける。牛越は「正規はアウトローなノリでいいんだよ」と原田を慰めた。「牛越さんはやさしくああ言ってくれるけど、なんでおれがシニアツアーに出ているかというと、やりなおしにきてるんだ。むずかしい。でも、今回も学びがあった」

POSTED : 2023-11-20