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最終戦2023 Part 1

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MASAKI HARADA

 

最終戦2023
Part 1

JPSA※1シニアツアー最終戦が始まる。2023年を締めくくる大会への気合いと準備。

※1 日本のプロツアーを主催する日本プロサーフィン連盟の略称。

 

文:高橋 淳
写真:飯田 健二

勝手知ったる南国宮崎

 

新島戦から5か月後。原田はJPSAシニアツアー最終戦、あくがれシニアプロ日向に出場するため宮崎に降り立った。成田から宮崎までは約2時間のフライトとあっという間。しかしながら、椰子の木とクリアな青空が醸し出す南国のムードは千葉とまったく異なる。

 

「やっぱり『帰ってきたな』って思う。中学生のころから先輩に連れられて通ってたからね」

 

九州出身の原田にとって宮崎は慣れ親しんだ場所。太平洋に面したその海岸線には1年を通してグッドウェイブが立つ。地元唐津には冬場しか波がない。そのためよく遠征をしていたのだ。サーフィンを通じて知り合った仲間が今もこの地に暮らす。そんな場所で開催される大会におのずと気合いが入る。

 

「あぁ、いいサーフィンしたい。みんな、そう思ってるんだよな」

宮崎空港に到着した原田。生まれ育った九州の地を踏み、今年最後の戦いに向けてゆっくりと心が研ぎ澄まされていく

ニューボードはフィーリンググッド

 

宮崎空港からすぐさま1時間ほどレンタカーを走らせ、大会会場のお倉ヶ浜に到着する。波のサイズは腰くらいと小さいが、風はオフショア※2。ときおりきれいな波がブレイクしていた。若手の選手たちが波をつかんではアクションを繰り出している。日はすでに落ち、夜になるまであと20分。

 

「入ります」

 

原田はさっと海の状況を見るやいなや、迷わず着替えて沖へ出た。今大会に向けて用意したニューボードのフィーリングをいち早く確かめたかったのだ。最近完成したばかりでまだ1回も乗ってないという。ところが、小波にもかかわらず1本目のライディングからスピードに乗っている。沖にいる原田にあせる素振りは見られない。じっくり自分の波を待ち、数本乗って上がってきたころには真っ暗になっていた。

 

「ちょっとオーバーフローだった新島戦用のボードをベースに調整したんだ。レールが薄すぎるかなと思ったけれど、おかげで小さい波でも小まわりがきく。いい感じ」

 

 

※2 岸から海に向かって吹く風のこと。風が海面を整えるため、基本的にはサーフィンをするのに適している。

日没後のお倉ヶ浜に滑り込む。海のなかには選手だけしかいない。大会前の独特の緊張感がビーチ全体に漂う

初めて乗るサーフボードとは思えないほどのリッピング。「もう少し波のサイズがあるに越したことはないけれど、小波でも十分に走る」

日が暮れたあとの空気は想像以上に冷たかった。「冬の宮崎の感じだよね。オフショアになる北西の風が吹くと、いっきに気温が下がる」

最終戦に向けて高めた意識

 

今回、原田は大会開催日の前々日に宮崎入りをした。よく知るサーフポイントとはいえ、直前の海のコンディションに体をなじませるのとそうしないのでは心持ちが大きく変わる。大会前日の朝、自身のヒートが行われる予定の時間と潮のタイミングに合わせて海に入り、準備に準備を重ねる原田。その姿は新島戦のときよりも凛としている。

 

「自分の調子はいい。いつも以上に波追いかけられてるから。サーフボードもしっかりついてきてくれる。あとは波さえ来れば……」

大会前日、翌日の自分のヒートと同じ時間の海を見つめる表情は真剣そのもの。どのような波が来るのか、イメージを最大限に膨らませる

4キロにもおよぶ広々としたビーチにいくつものピーク※3が点在するお倉ヶ浜。波が小さな今回の大会では、波の見極めが重要なファクター

※3 波が最初に崩れはじめる場所。

早朝のヒートに勝つことを想定して、その次のヒートが行われる予定の時間にも練習を重ねる。「できることは全部やる」

試合前の選手同士のコミュニケーションには和やかさと緊張感が同居する。おたがいのサーフボードは気になるところ

気合い十分の大会前夜

 

波は昨日よりもさらに小さく、待ち時間が長い。予報によると明日も期待はできない。波の宝庫、宮崎でもこんなときもあるのだ。原田も心の奥では落胆しているに違いないが、あきらかにやる気のほうが上まわっていることが伝わってくる。ニューボードとの好相性も、前向きな気持ちを保つのにひと役買っているようだ。

 

「前回のボードはノーズが反りすぎていてライディング中にストレスがあった。おれのサーフィンの持ち味は強い踏み込み。だから踏みごたえを出すためにノーズロッカー※4を抑えて、さらにキレを求めてテールエリアをシャープにしたんだ。そしてEPS※5だから軽くて反発がいい。小波でも走るよ」

 

みっちりと2ラウンドの調整をこなしたあとの大会前夜。原田は「すべてが明日にあるから」と静かに闘志を燃やし、しっかりとした夕食も食べずに就寝した。準備は万端だ。

 

 

※4 サーフボードの先端エリアの反りのこと。好みのサーフィンのスタイルや使用する波の掘れ具合によって調整する。
※5 エクスパンダブルポリスチレンの略称。密集したビーズを発泡させた、いわゆる発泡スチロール素材。

原田が信頼を寄せるポスティブダイレクションサーフボードの石井 勇がシェイプした5’8″ 1/2。南国宮崎に映えるカラーリングは原田本人のアイデアだ

 

<つづく>

 

Part2はこちら>

POSTED : 2023-11-10