PLAYERS : EMA KAWAKAMI
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
世界への一歩
Part 2
初めてのコンテスト出場で優勝の快挙。目指すはイタリア・ローマの大会。大きな目標に向けて歩みを進める小さな勇姿。
文、写真:河上 竜平
決勝がスタート。最初のラン
本番直前のエキスパートクラスの練習が始まった。決勝のメンバーは全国的にも有名なスケーターばかりだ。親のわたしのほうが緊張してしまう。いっぽう、エマは淡々と練習をする。練習の後半ではルーティンを3本連続で成功させ、期待が高まった。
「今日はキックフリップボディバリアル540※1の調子がいい。2本あればぜったい決めれるわ」
そして、いよいよ本番。エマはあまり緊張するタイプではない。バーチカルランプの上で、とくに集中しているときの顔をしている。
1本目のランがスタートした。アーリー540インディグラブ※2を成功させ、900※3もメイク。しかし、キックフリップボディバリアル540でタイミングが合わずミス。追い込まれたエマは、2本目で決めるしかない※4。
※1 空中でボードを縦に1回転、お腹側へ1回転させながら、体を1回転半させるトリック。
※2 背中側に向かって滑り、空中で体とボードを一緒にお腹側へ1回転半させながら、デッキのつま先側を後ろの手でつかむトリック。通常のバックサイド540と反対方向に飛び出し、着地位置も反対になることから難易度が高くなる。
※3 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
※4 今大会決勝のレギュレーションはラン2本とベストトリック3本。ランは30秒のルーティンで採点され、ベストトリックは1つのトリックで採点される。
ロントでハイエアーできるとこも見せたいから、やってくるわ」と自由に滑れる時間にアピールしにいくエマ
決勝に向けて、公開練習に真剣に取り組む。錚々たるメンバーだったが、まったく気にせず自分のペースを貫いていた
想定内のピンチ、タフな精神力
ルーティンの最終ランとなる2本目。練習では、このシチュエーションを想定してイメトレもしてきた。でもまさか、本当に追い込まれるとは……。エマは最大限に集中している。MCも状況を察し、エマの気分を上げてくれている。わたしは「とにかく成功してほしい」と心から願った。
2本目がスタート。900をきれいにこなし、1本目でミスしたキックフリップボディバリアル540も完璧にメイク。その先はメイク率の高いトリックだ。「とにかく乗ってくれ!」。そして、ラストトリックのフェイキー720※5もみごと乗った。
エマはルーティンを完璧に成功させた。その精神力のタフさにその場のみんなが驚き、興奮している。会場は今日いちばんの盛り上がりを見せた。得点は86.1。今大会の最高得点がつけられた。
※5 通常と逆のスタンスで滑り、空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
1本目にミスしたキックフリップボディバリアル540を追い込まれた2本目でメイク。「調子がいいからまったくはずす気はなかった」
ヒーローの前で見せるベストトリック
イベントはベストトリックへと移る。狙うのは、ギー・クーリーに捧げる連続900だ。
「連続でやってるスケーターは誰もおらん。ギーの前で決めたい」
1本目。ひとつ目の900を成功させたが、ふたつ目につながらなかった。だがひとつ目の900に70点がついた。2本目、900の高さを上げようとしてタイミングが狂いミス。そして、エマが3本目を滑る前に全員のランとベストトリックの点数が出そろった。その時点でエマが最高得点。3本目を滑る前に、生まれて初めてのコンテスト優勝が決まった。
ウィニングランとして3本目にチャレンジする。ここでもひとつ目の900を完璧にメイクしたが、ふたつ目でミスしてしまった。このときまで、エマは得点をいっさい計算していない。MCの「河上 恵蒔!優勝!」というアナウンスで自分が優勝したことを知り、心から大喜びしていた。
「900を練習でやりつづけてきてよかった」
900は、すでにランで見せていたとしてもハイレベルなトリックであることに変わりはない。ジャッジがその点を評価してくれたことに対してエマは満足げだ。
決勝のランで見せた900。わたしの知る限り、ランで精度の高い900を入れてくるスケーターは世界でもギー・クーリーくらいだ。だがエマも何百回も練習してきた得意トリック。キックフリップボディバリアル540と同じく、はずす気はまったくなかったという
ベストトリックでの900。「ギー・クーリーの前で連続900をメイクしたかった」とくやしさもにじませていた
プロのフォトグラファー、ペドロ・ゴメスが優勝したエマを担ぎ上げてくれた。エマの活躍を見守り、ずっと応援してくれているよき理解者だ
ギー・クーリーから金メダルの授与。「とにかくうれしかった。あこがれているギー・クーリーに自分の滑りを見てもらえて最高の気分だった」
コンテスト終了後、海外からやってきたカメラクルーと一緒に。エマが小さな体で超難易度の高いテクニックをメイクし、さらに挑みつづける姿を見て感動してくれた
一歩一歩。ローマへ向けた歩み
コンテストのないコロナ禍にスケートボードを始め、練習を続けてきたエマ。目標は優勝ではなく、目の前のトリックをいかに攻略するか。初出場となるバーチカルのコンテスト、しかもホームパークでの優勝。シンプルなチャレンジの日々はこうして報われた。
JSF※6主催このコンテストツアーは全3戦あり、2戦の合計得点が高い上位者が2024年9月にイタリア・ローマで開催予定のワールドスケートゲームズ※7に出場できる。
「もっとルーティンの完成度を上げて、新しいトリックも増やしていく。もう1戦で高得点を出して、イタリアに行きたい」
多くの猛者がいるなかで世界大会への切符を手に入れることはけっしてかんたんではない。だがエマは「きっと勝つ」と意気込み、今日も練習を重ねている。
※6 日本スケートボーディング連盟の略称。
※7 ワールドスケート国際連盟によって行われている、あらゆるローラースポーツ分野を含んだ国際的なマルチスポーツイベント。隔年で開催される。
おじいちゃん、おばあちゃんからお祝いのケーキが届いてご満悦。本番での900連続メイクが課題だとさっそく燃えているエマだが、初めての金メダルはやっぱりとてもうれしいようだ
POSTED : 2023-12-18