PLAYERS : MASAKI HARADA
TOP STORY フリーマニューバーを求めて Part 2
原田 正規
MASAKI HARADA
フリーマニューバーを求めて
Part 2
サーフィンより楽しくするハンドシェイプへのこだわり。
文:高橋 淳
3年間の修行の末
サーフボードのハンドシェイピングはかんたんではない。
「だから自分の手でボードをつくろうと思い立ってから、まずはシークエンスという老舗ブランドのサーフボード工場にお世話になって3年ほど下積みをした。もちろんシェイピングだけじゃなく、ラミネートやサンディング、バリ取りやフィンボックスの埋め込みなどすべての工程を修行したよ」
しかしながら、プロサーファーが乗って満足できるサーフボードを3年の修行でつくれるというもの驚きだ。実際、原田がシェイプしたボードは見た目も格好いい。そんな話をすると、原田は笑いながらこう言った。
「ふつうの人が見たらそう思うかもしれないけれどまだまだだよ。長年ハンドシェイプを続けている達人のレベルは違うから。カーブのつながり方がぜんぜん違う。熟練の腕によるサーフボードは本当にピタッてきてるっていうか、マシンでつくったみたいなんだ」
ハンドシェイプの達人、ポスティブダイレクションサーフボードの石井 勇(右)。原田は石井のサーフボード工場を間借りしてサーフボードをつくっている。「何十年もハンドシェイプを続けている勇さんのそばにいられることは大きい」
写真:熊野 淳司
サーフボードのもととなるウレタンフォームはブランクスと呼ばれる。ストリンガーという補強のための木が挟み込まれたブランクスをプレーナーなどの道具を駆使して精密にシェイピングしていく
写真:熊野 淳司
既存のサーフボードとテンプレートの曲線を見くらべる原田。好みのカーブを持つテンプレートを使ってブランクスにアウトラインを描くところからシェイピングは始まる
写真:熊野 淳司
原田のシェイピングツール。「おれは今最低限の道具でやっている。今後の課題はもっと知識をつけることと、道具をそろえること。いい仕上げをするにはいい道具がないといけない」
写真:熊野 淳司
マシンシェイプとハンドシェイプ
昨今、世にあるサーフボードは大型のシェイピングマシンを使ってつくられるものが多い。理由はいくつかある。まずは競技サーフィンの成熟にともなう緻密なデザインのため。まるでF1のようなトッププロの世界では、ミリ単位の調整を正確に繰り返すことができるシェイピングマシンは必須だ。
「マシンを完全には否定しない。分野は分けて考えるべきだよ。おれはより深く楽しむためのサーフィンを追求している。だからこそ、自分が乗るサーフボードを誰がつくってるとか、その人がどういう道を歩んで今ここにいるかを意識する。そのうえでハンドシェイプあることにはすごく価値があるんじゃないかな」
いっぽう、商品としてのサーフボードを大量生産することにもシェイピングマシンの力は役立つ。前述した理由の多くはここにある。原田はこの点においてはやや否定的だ。
「変にサーフボードをつくることはあまり好きじゃない。マシンでピピっじゃなくて、自分のアイデアを自分の手でゼロからかたちにしたものはやっぱり特別だと思うね。その人の経験から生まれた作品だから」
原田がハンドシェイプしたサーフボードには“HAND SHAPE”の文字が手描きで刻まれる
写真:熊野 淳司
ビギナーに向けたサーフボード指南
これからサーフィンを始める人が最初に選ぶサーフボードはやはりハンドシェイプのほうがいいのだろうか。原田の答えはこうだ。
「初めての人はスポンジボードがいいよ。危なくないからね。スポンジボードから始めてみて、おもしろければサーフィンを続けてみればいい。そしてセイゴ、フッコ、スズキのようにどんどん成長していくと本物のサーフボードに乗りたくなるはず。そこまでたどり着いてほしいな」
経験を重ねたときにわかってくる深さががおもしろい。そうして自分のサーフィンに取り入れた深みがパワーになるのだと原田は語る。
「つまりおれはサーフィンのおもしろさを伝えているわけだよ。ストーリーというか。数字で叩かれたデザインとシェイパーがたどってきた経験が注ぎ込まれたハンドシェイプ。どちらもいい部分がある。でもハンドシェイプのサーフボードに乗るとき、おれは気持ちの入り方が全然違う。自分のなかの粒子からサーフィンが変わると思うんだ」
シェイピングするときはヘッドホンで好きな音楽を聴き外界をシャットアウト。イメージの世界に100パーセント没入。「ほどよく休憩を入れないと、入り込みすぎて失敗するから気をつける」
写真:熊野 淳司
不変のサーフクラフトを目指して
現在の原田はサーフボードづくりを生業にはしていない。オーダーが入ればカスタマーのためにつくることもあるものの、基本的には自分や我が子たちのためにサーフボードをシェイプしている。
「『ブランドをやる』と言ったって、まわりが応援してくれなかったらできるものじゃないからね。いざそういうときが来たときにいつでもできるよう腕は磨いている。でも今は、JPSA※シニアツアーへの参加とサーフレッスンの仕事に特化してるよ」
自分のサーフボードをつくるのは年に数本程度。それくらいのマイペースが楽しいと話す。
「それこそ商売をいちばんに考えるんだったらマシンシェイプでいいしね。インスピレーションがあるときにハンドシェイプした自分のボードに乗ることが楽しみでしかたない。人に乗ってもらうんじゃなくて、自分が乗りたいからつくるんだ」
とはいえサーフボードデザインとシェイピングに対する原田のこだわりは強く、取り組む態度は真剣だ。
「昔のサーフボードを見ると『これあの人のシェイプだ』ってチェックするでしょ? そして現代の進化したサーファーの目線で『これ乗れるじゃん』とか『調子悪いな』とか勝手なことを言う(笑)。つまりおれがつくったサーフボードを何十年後にだれかが見つけたら、そのデザインが本当によかったのかを問われる。未来のサーファーがおれのボードに乗って『やばいよ!』ってなることを想像するとおもしろい。それぐらい詰めてシェイプしてるよ。だから多少なりともプライドはある。マシンを使って手広く商売するというのも悪くは思わない。ただ、おれがしたいサーフボードづくりはこんなやり方なんだ」
※ 日本のプロツアーを主催する日本プロサーフィン連盟の略称。
波に自由にラインを描く「フリーマニューバー」をイメージしてつくられたモデル、F3。原田のサーフボードは理想のライディングと直結している
写真:熊野 淳司
POSTED : 2023-08-12