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フリーマニューバーを求めて Part 1

PLAYERS : MASAKI HARADA

TOP STORY フリーマニューバーを求めて Part 1

原田 正規
MASAKI HARADA

 

フリーマニューバーを求めて

Part 1

思い描く理想のライディング。そしてサーフボードシェイピングにかける思い。

 

文:高橋 淳

 

ライダー目線のサーフボードづくり

 

プロサーファーである原田は、自分で乗るサーフボードをみずからの手でシェイプする。やや幅広のノーズ、頂点が尖ったテール、そしてボトムに施された独特なコンケーブが特徴のF3は現在の原田の集大成だ。

 

「F3は波のサイズが上がったときにいいリズムでサーフィンができるようにつくったモデル。速いテイクオフから波の速いセクションを抜けて、きれいにカービングをしてからインサイドまできっちり乗る。そして沖まで楽にパドリングをして、また波に乗る。自分が経験した『サーフィンって最高だな』と思えるときのイメージをかたちにした。ワイプアウト※1しないで、海のなかでいいリズムがつくれるとすごく気持ちいいじゃん」

 

サーフボードシェイピングは職人仕事だ。クラフトマンとして長年磨いた腕とセンスが造形美を生み出す。ときに美術品としての価値を生むサーフボードさえある。だが本来、サーフボードは波の上で機能することが第一の目的だ。

 

「仕上がりの美しさもひとつの視点だよね。でもおれはサーフボードをあくまでも実用的な目線で捉えている」

 

 

※1 ライディング中に転んで水中に落ちてしまうこと。

波の上で自由なラインを描くためのサーフボードデザインを追求する原田。高いサーフィンのスキルがあるからこそ見える世界がある

写真:飯田 健二

F3のピラミッドテール。テールエンドの頂点を高くすることで直進性と安定性も高めた。とくにビッグウェイブにおいて有効だという原田によるオリジナルデザイン

写真:熊野 淳司

F3のボトムに施されたホールドエスケープコンケーブ。中央に彫られた深いコンケーブが水をホールドしながら後ろに流し、スピードを生む。コンケーブはテールにかけて末広がりになり、抱え込まれた水がリリースされてコントロール性が高まるという原田独自の理論が詰め込まれている

写真:熊野 淳司

 

ボードデザインに目覚めた原体験

 

幼いころからサーフボード工場が身近にあった原田がボードデザインに興味を持つのはごく自然ななりゆきだった。地元唐津にはプレゼンスサーフボードのオーナー兼シェイパー東島善寿、通称善さんのファクトリーがあったのだ。そこへ足しげく通っていた原田は少年時代のエピソードを語る。

 

「善さんにニューボードをつくってもらっていたおれはできあがりを楽しみに待っていた。シェイピングは仕上がっている。でもそこから先の工程が半年経っても進まないんだよね。善さんはほかの仕事をしながらサーフボードづくりをしてるからいそがしかったんだろう。全然つくってくれないんだ(笑)。おれはシェイプされたブランクス※2を何度も見ながら、『早くおれのボードできねーかな。乗ったらこんな感じかな? もっとこうかな?』とイメージを膨らませていた。自分なりのボードデザインについて遡ると、その思い出に行き着く。サーフィンが大好きで、そのころからサーフボードを追求する意欲があったんだ」

 

あくまでも実用性を第一に考える原田だが、カラーリングやグラフィックについてもこだわりを持っている。

 

「高校生のときには自分のサーフボードにエアブラシで塗装していた。プロの職人がするのと同じように、ラミネートする前のブランクスにね。そして自分でカラーリングしたボードでISAワールドサーフィンゲームズ※3に出た。プロテストも自分でエアブラシを吹いたサーフボードで合格したんだ」

 

サーフボードの色やグラフィックはサーファーの心、ひいてはライディングに作用すると原田は考える。自分の手で色づけやデザインを行えばその影響はなおさらだと。そうして、サーフィンやサーフボードに対する原田独自の感性は育まれていった。

 

 

※2 サーフボードのベースとなる硬質ウレタンフォーム。発泡スチロールと同様のEPS素材のものもある。
※3 IOC(国際オリンピック委員会)の国際競技連盟に所属するISA(国際サーフィン連盟)主催の世界選手権大会。世界チャンピオンと国別のランキングを決定する。

原田の家のガレージにはこれまで乗ってきたサーフボードが並ぶ。これらはほんの一部にすぎない

写真:熊野 淳司

 

理想とリレーションシップのジレンマ

 

シェイピングを始める前、選手時代のこと。サーフボードメーカーを経営していた原田はプロのシェイパーと手を組み、数多のデザインを試してきた。その際に「もっとこうしてほしい」という自分のなかにある理想と、ボードをつくってくれるシェイパーの技術とセンスを信頼したいという気持ちのあいだにジレンマを抱えていたという。

 

「シェイパーはみんな自分のデザインにプライドを持っている。だから突飛なアイデアを提案しづらいことがある。おたがいにいい関係性を保ちたいしね」

 

その結果、原田はサーフィンに対するモチベーションを保てなくなってしまった。そこで行き着いた解決策がシェイピングだったのだ。

 

「自分でシェイプするようなってから『もっとこんなサーフボードをつくりたい』という創作意欲とともに、サーフィンをしたい気持ちが増していったんだ。つねに『発見』がある新たなサーフィンの楽しみを知っちゃった」

自作のサーフボードと一緒に。原田が手にするのはF3。中央の小さなボードは長男のカイマナ用につくったもの。左のユニークなボードはスノーボードの要素を取り入れたデザインだ

写真:熊野 淳司

 

イメージが爆発するフリーマニューバー

 

「いちばん楽しいのは、サーフィンしたあとのシェイプ。これに尽きる。イメージも冴えてて、テンションもいい。そのときのシェイプが最高なはず。シェイパーはそれをわかってると思う。熟練の職人はどんなときでも安定したシェイプができると思うけれど、おれは始めたてのペーぺーだから、サーフィンしてからシェイプするのが楽しくてしょうがない。新鮮なイメージが湧いてくるんだ。それもシェイプを始めてからの新しい発見」

 

原田が求めるイメージとは「フリーマニューバー」。つまり、自由なサーフィンだ。

 

「フリーマニューバーはおれの造語。大会だったらひとつの波に可能なかぎりアクションを入れるというセオリーがある。でもフリーマニューバーでは、たとえば3発アクションが入るセクションを思いっきり走って、でかいラウンドハウスカットバック※3を1発入れる。勝敗にコミットするんじゃなくて、自由を表現するためのサーフィン。自分が欲するんだろうね。そういうサーフィンを。そして、それを実現するためのサーフボードを」

 

 

※3 波が厚くなるセクションで大きな弧を描きながら波が崩れる際に戻り、サーフボードを急激に切り返すテクニック。

シェイピングにサーフィンの新境地を見出した原田。「自分のイメージの100パーセントをかたちにしてるから、乗っていて余計な迷いが出ないんだ」

写真:熊野 淳司

“FOR – FREE SURFER –”。自由なイメージを持つサーファーに向けてつくられる原田のサーフボード

写真:熊野 淳司

 

<つづく>

 

Part2はこちら>

POSTED : 2023-07-31