STORY

新島の戦い Part 1

PLAYERS : MASAKI HARADA

TOP STORY 新島の戦い Part 1

原田 正規

MASAKI HARADA

 

新島の戦い

Part 1

ついに原田がJPSAシニアツアーに参戦。7年ぶりの大会出場に向けたウォーミングアップ。

 

文:高橋 淳

 

プロとしての再挑戦、いざ新島へ

 

5月28日、日曜日の早朝。原田 正規は竹芝桟橋へ向かって車を走らせていた。JPSA※1シニアプロ新島に参戦するためだ。高速ジェット船は竹芝発午前8時30分。お昼前には新島に着く。

 

この大会に合わせたかのように、大型で非常に強い台風2号「マーワー」が日本の南海上を進んできている。5月の台風としてはめずらしく勢力が強い。つまり天候が荒れ、波が上がる可能性が高い。だが外房から都内へ向かう今の空はまだ明るく、新島の波も小ぶりなようだ。

 

原田がプロの大会に出場するのは7年ぶり、2016年バリ戦以来のこと。通常、大会スケジュールは波の状況を見ながらメン、ウィメン、マスターなど各クラスと合わせて調整され、発表は開催直前となる。今回のシニアプロは大会期間の初日、29日の朝から行うという知らせが届いた。原田は意気込んでいた。

 

「大会に出るっていうのは、やっぱりワクワクする。もちろん優勝を狙う」

 

 

※1 日本のプロツアーを主催する日本プロサーフィン連盟の略称。

竹芝のターミナルで船を待つ。ひさしぶりの大会出場に向けて、どこか落ち着かない面持ちの原田

写真:飯田 健二

 

淡井浦に漂う緊張感と闘志

 

選手時代からの盟友、山浦 宗治とともに新島に到着した原田は予約していたレンタカーを受け取り、宿にチェックイン。島全体にゆったりとしたリズムが流れている。でも今は、アイランドバイブスに身をゆだねるときではない。手早く道具を整理し、明日から大会が行われるビーチへ向かった。

 

会場となる海は島の北部にある淡井浦だ。新島山と阿土山に挟まれたこじんまりとしたその入り江には、うねりが掘れ上がりチューブになる波が立つ。ビーチに着くと、すでにジャッジブースや大会本部となるJPSAのテントが立ち並んでいる。そして、かつて競い合った面々が波を見ていた。ひさしぶりに戦友に会えた素直なうれしさとみなぎる闘志が原田の心のなかで入り混じる。

 

JPSAの特別戦として単発で開催されていたシニアプロだが、昨年からツアーへとグレードアップした。過去のグランドチャピオンをはじめ参戦するプロサーファーが増え、年々盛り上がりを見せているのだ。とはいえ、原田は気にしていなかったと話す。

 

「ツアーが始まったから参戦したわけじゃない。でも、これがタイミングなんだなっていう気はしたかな」

 

新島に到着。「路地が狭い新島での移動手段は、サーフボードがたくさん入ってなおかつ小まわりのきく軽自動車のワンボックスが最強」

写真:飯田 健二

1999年のショートボード男子グランドチャンピオン、そして2022年度シニアツアーのグランドチャンピオンである浦山 哲也(左)、山浦 宗治(中央)と波チェック。「なつかしい空気。それが大会会場で最初に感じたこと」

写真:飯田 健二

 

大会前日の淡井浦の様子。台風が近づいていたものの、うねりはまだ入っていなかった

写真:飯田 健二

 

サーフアイランド新島との縁

 

「新島はプロサーファーならばみんな何かしら思い入れがあるはず。おれは1995年にここでプロテストに受かった。そして2003年にWCT※2に出た場所なんだよ」

 

日本有数のサーフアイランドである新島では、JPSAの大会が毎年開催されている。さらに世界規模の大会が行われたことも多数。その魅力は白砂のビーチと青く透き通った海、そこにそそり立つパワフルな波だ。力強く大きな波は原田の得意とするところでもある。この1か月のあいだ、日々のサーフィン、サーフボードのチューンナップと新島戦に向けて調整を重ねてきた。しかし、予想に反して波は小さい。とにかく体を慣らそうと、ウェットスーツに着替えてニューボードにワックスを塗ると、原田は海に飛び込んだ。

 

※2 世界のプロツアーを運営するWSL(ワールドサーフリーグ。旧称ASP)による世界最高峰のワールドツアー「ワールドチャンピオンシップツアー」の略称。現在はCT(チャンピオンシップツアー)と呼ばれている。

 

美しい新島の海に映える原田のサーフィン。舞い上がる大きなスプレーがスピードとパワーを物語る

写真:飯田 健二

 

想定外の波、立てた作戦

 

波は岸のすぐそばでいっきに崩れるショアブレイク。滑れる距離が短く、アクションを入れにくい。ニューボードは浮力がややオーバーしているように感じられた。

 

サーフィンの大会は、点数の高いライディング2本の合計点で勝敗を決める。そして1本のライディングは、スピードとパワー、そしてフロー、アクションの革新性、乗った波のクオリティなどを総合的にジャッジされる。

 

原田は想像とかけ離れた状況にとまどった。そうして行きついた作戦はこうだ。

 

「勝つためには、1発の技でエクセレントスコア※3を叩き出すしかない」

 

 

※3 10点満点中8点以上の点数のこと。

 

 

練習直後、原田は想定外の波にとまどいを隠せずにいた。だが台風の進路を考えると、大会当日は波が上がる可能性が高かった

写真:飯田 健二

 

 

<つづく>

POSTED : 2023-07-03