PLAYERS : EMA
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
540連続チャレンジ
怪我することもいとわない。無謀な練習の先にある成長。
文:河上 竜平
好奇心。540を何回続けてメイクできるか
バックサイド540(ファイブフォーティ)※1はエマが好きなトリックのひとつ。始めたころは回転の仕方や高さ、タイミングがバラバラでメイク率が低く、連続で成功させることは難題だった。しかし今ではグラブ※2を変えて連続でメイクできるまでに成長した。
大会では540だけを連続で行うことはない。だが「きちんと540が身についているのであれば、何回も続けてできるはず」というチャレンジ精神から、540を連続でする練習を以前はよくやっていた。
最近そのことを思い出し、1回だけの挑戦で540を連続何回できるかやってみた。
※1 空中で体とボードを一緒にお腹側へ1回転半させるトリック。
※2 ライディング中にデッキ(スケートボードの板)をつかむテクニック。
結果は連続8回!回転しているときには「10回できそうかな?」と思っていたらしく、終わったあとに少しくやしがっていた
映像:河上 竜平
小さな体と危険なトリック
今でこそ、ホームであるジースケートパークのバートランプ※3でエマが540をミスすることはほとんどない。エアーをするのと変わらないほど高くなったメイク率の背景には、強い気持ちで何千回も繰り返してきた練習がある。そして、同じ数だけ転んで痛い思いをしてきた。お尻にはプロテクターを入れているが、それでも青タンができる。肘のプロテクターの内側は血だらけになった。
小さな子どもは怪我をしにくいとしばしば言われるが、やっぱり痛いものは痛いし、怖いものは怖いだろう。むしろ当時のエマの筋力や理解力は6歳という年相応のものであり、あきらかに小学校高学年の子には心も体も劣っていた。中学生と比較すればなおさらだ。もしも体が小さいほうが有利なのであれば、低年齢になるにつれて540ができる子の割合が高くなるはずだ。しかし実際はそうではなく、年齢を重ねるごとに540をメイクできる子が増える。
※3 最上部が垂直になったハーフパイプ状の巨大構造物。バーチカル(バート)という競技のコースとなる。
6歳のころのエマ。小学校入学の思い出に地元の桜のきれいな川沿いでワントリック。今では「重たい」と文句を言っているが、このころは初めてのランドセルに終始ごきげんだった
写真:河上 竜平
初めてジースケートパークのバートランプで540を成功させた直後にアクシデント。ミニランプを滑っていたら、コーピング※4付近でほかのスケーターが出していたデッキに引っ掛かり転倒。左腕の靭帯を伸ばしてしまった
写真:河上 竜平
※4 各種ランプなどのコースにおいて、アールというカーブしたセクションとプラットホームとの接点になるパイプ状のレールのこと。
エマが6 歳で初めてバートランプで540を成功させたときの動画。バートランプでまだバックサイドのメロングラブエアー※5しかできないときにチャレンジした。
映像:河上 竜平
※5 前方の手でデッキのバックサイド(かかと側)の両足間をつかむトリック。メランコリーとも呼ばれる。
「ぜったいやりたい」という強い気持ち
上の動画にある初めての540は、今とは高さも回転も着地位置もまったく違う低いレベル。とはいえ、今思えば6歳でバートランプでコーピングを超えた540にチャレンジすることは無謀と言える。やりたいという園児がいたらおすすめはしない。転んだときのリスクを考えると、コーピングの下でエアーをしない540までにしておいたほうがいいだろう。弟の柊呂(ヒイロ)は現在5歳だが、本人がやりたいと言ってもまだバートランプで540はさせないつもりだ。
でも当時のエマにとってコーピングを超えた540をバートランプで成功させることは、とても大切なことだったようだ。園児ながら「ぜったいにバートランプで成功させたいから、ジースケートパークよりも高さの低いバートランプのある名古屋のハイファイブスケートに連れていってくれ」とお願いしてきたのだ。あまりの熱意に根負けして、ハラハラしながら見守った。
初めてメイクした540は気持ちだけでなんとか乗った感じだった。それから試行錯誤を繰り返して8回も連続でできるようになったことを考えると、この2年の成長は著しい。
ジースケートパークで540の完成度を日々磨き上げる。540はスケートボードにおいていわゆる「大技」。エマにとって、保育園のときにぜったいメイクしたかった思い入れのあるトリック。今でもいちばん好きなトリックだ
写真:河上 竜平
POSTED : 2023-06-23