PLAYERS : MASAKI HARADA
TOP STORY Sリーグ伊豆・下田戦2024 Part 2
原田 正規
MHASAKI HARADA
Sリーグ伊豆・下田戦2024
Part 2
Sリーグマスターズツアー第2戦、原田の出番が来た。ツアーは全3戦。勝利を重ね、グランドチャンピオン獲得に向けて邁進する。
文:高橋 淳
写真:飯田 健二
ジャッジの目を見越した、サーフボードのチョイス
大会3日目となる9月19日、マスターズツアーはトライアル、1回戦に続くクォーターファイナルが行われる。「さわかみ伊豆下田プロ」における原田の最初のヒートだ。波は前日の予想どおり、若干サイズアップ。腰〜腹くらいと小さいことには変わりないが、選手全員が同じ条件だ。
早朝、原田は小波を想定して持ってきたツインフィッシュ、そして波がいいときのために用意したラウンドスカッシュテールのスラスターをテストした。
「ロッカー※1があるからテイクオフは少しもたつくけど、乗っちゃえば(ボードの)上がりがいいからこっちで行く」
原田が選んだのはよりハイパフォーマンスなチューニングを施してあるスラスター。今大会のこれまでのヒートを見て、スピードをつけて走るだけではなく、リッピングをライディングに織り込まないと点数が伸びないと判断したのだ。
※1 サーフボードについた反りのこと。ボードの直進性と回転性いう相反する要素を左右する。
青空が広がった多々戸浜。のどかな自然のなかで熱戦が繰り広げられるのがサーフィンのコンペティション
早朝の練習にてツインフィッシュに乗る原田。小波でもよく走る性能が見て取れる。だがここまでのスピード感は、もちろんプロのテクニックありき
スラスターはトップアクションが冴える。原田が本番用に選んだ理由
チョイスしたスラスターの長さは5’9″。持ち込んだボードはすべて、原田が信頼を置くポスティブダイレクションサーフボードのシェイパー、石井 勇がチューンナップしたもの
波を狙いすまし、クォーターファイナルを通過
前日の波不足の影響により、この日は進行を早めるためビーチ内の2か所でヒートを行うことになった。
9時10分、原田のヒートがスタートした。朝よりもオンショア※2が強まってきた。そのうえ、12時の干潮に向けて潮位はどんどん下がっている。このときの多々戸浜は、多めの潮で波がよくなる地形をしている。
波がブレイクするインサイド寄りで、対戦相手の脇田 貴之、徳田 昌久、渡辺 広樹とともに波を待つ。すかさず、レギュラーの波※3に乗った原田は力強く走り、トップでスプレーを上げた。このライディングに対して、5.50※4のスコアがつく。波のコンディションを考えると、なかなかいい点数だ。しかも試合はまだ序盤。伊豆で開催されるプロの大会は、なぜか波が小さいことが多い。その点を踏まえて、ライブ配信で解説を務める往年のトッププロサーファー、関野 聡が話す。
「『1本目のハイスコアを制したものがヒートを制す』っていうジンクスがある」
その後、トライアルから勝ち上がってきた脇田が小刻みにライディングを重ねて、トップに躍り出る。残り時間10分。原田が乗ったのは、初っ端の1本のみ。プライオリティ※5をキープし、じっと乗るべき波を待っている。
「原田選手は『キレた波しか行かないぜ』って感じですね」
残り8分。原田は小ぶりなレギュラーの波を乗りつなぎ、岸スレスレでリッピングを繰り出した。いい点数が出たかと思われたこのライディングは1.17。最後のアクションをメイクしていないというジャッジの判断だ。時間は淡々と過ぎていく。残り5分。潮が引いたことで、波はますます力ない。さらにオンショアによってバンプが大きくなるというむずかしいコンディションに選手全員が手を焼いている。
終了間際、最後に乗ったサーファーは原田だった。2.83。辛くも2位で逃げきった。
※2 海から岸に向かって吹く風。風が波頭を潰すため、基本的にはサーフィンに適さない。
※3 ライディングするサーファーの目線で海から岸を見て、右へブレイクしていく波。左へブレイクするのはグーフィーの波。
※4 ライディング1本の最高得点は10点。Sリーグの大会ではヒート中のベスト2スコアの合計点で勝敗が決まる。
※5 ヒート中、それぞれの選手に順番に与えられる優先権。ヒート開始直後のプライオリティ(優先権)が誰にもない状態で、最初に波に乗ったサーファーからプライオリティの順位がいちばん低くなる。その後、次のサーファーが乗るとプライオリティの順位が繰り上がっていく。
長男カイマナが原田をサポート。家族の応援は何よりも心強い
ヒート直前、緊張の面持ち。マスターズツアーは全3戦と多くはないため、1つのヒートすべてが重い
力強く美しいスプレーを上げて、原田は最初のヒートを勝ち上がった
強いオフショア、小波の厳しい戦い
大会最終日。風向きが変わった。強いオフショア※6が吹き、波は小さくなっていた。
マスターズのセミファイナルが始まった。原田の相手は千葉の先輩であり元JPSAグランドチャンピオンの浦山 哲也、マスターズツアーで多くの戦いを重ねてきた今村 厚、そしてトライアルを勝ち上がってきた静岡の山田 圭司。
今村、山田は波数が少ないコンディションでのセオリーどおり、来た波にとにかく手を出し3~4点代のライディングを連発する。原田も負けじと波に乗るが、1.5のロースコア止まり。持ち味であるパワフルなサーフィンを発揮できない波に苦戦を強いられている。
残り15分。山田が小波を軽快に乗りこなしスコアを重ねてトップを行く。原田のライディングは、またしても1.5と伸びない。そして、いい波はいっこうに来ない。そんななか、多々戸の海をよく知る地元・伊豆のプロサーファー、今村はプライオリティのあるなしに関係なく乗りまくっていく。そしてついにいい波をつかむと、バックサイドで乗りつなぎ3発のリップアクション。5.25で逆転し、トップへ。沖合は20メートルの風が吹いている。そのせいで生まれる海面のヨレが、岸際でブレイクする波に影響している。あらゆる状況を感覚的に知るローカルが強い。
浦山と原田がむずかしい小波に手こずっているうちに、残り時間はもう2分。波に乗り、なんとか1発を当て込んだ原田のラストライドは2.85。ヒート通過に必要な5.45には届かないまま、伊豆の戦いは終わった。
茨城戦で優勝した河野 正和も同じく、クォーターファイナルで敗退。マスターズツアー2戦終了時の総合ランキングは、1位河野、2位今村、3位原田。それぞれの点差は少なく、グランドチャンピオンを狙うのに十分なポジションに、原田はいる。●
※6 岸から海に向かって吹く風。風が海面を整えるのでサーフィンに適しているが、強すぎると波に乗りづらい。
波のサイズはもも〜腰程度。前日よりさらにサイズアップするだろうという原田の予想は、残念ながら覆された
ヒート直前の選手紹介。ブルーのゼッケンを着てヒートに臨む
下田ハウスのオーナー関夫妻も原田の応援に駆けつけた。プロサーファーが宿泊したのは初めてということで、なおさら親身になってくれたという
小波に苦戦しながらも、作戦どおりリップアクションを果敢に繰り出した原田
かならず、誰かが勝ち、誰かが負ける厳しい世界。笑顔のときばかりではない
「さわかみ伊豆下田プロ」マスターズを制したのは、ツアールーキーの佐藤 千尋。ツアーに新たな風を吹き込むエアリバースをメイクして優勝を勝ちとった
原田のヒート終了後、関さんと釣りにいったカイマナが大物をゲット。下田の新鮮な海の幸が夜の食卓に並んだという。「この釣果と関さんのおもてなしにすごく癒された」と原田は振り返った
POSTED : 2024-11-15