STORY

夢のXゲームズ Part 3

PLAYERS : EMA KAWAKAMI

TOP STORY 夢のXゲームズ Part 3

河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI

 

夢のXゲームズ
Part 3

 

Xゲームズ※1・ベンチュラ大会に出場したエマ。そしてまた、夢は大きく膨らんでいく。

 

※1 さまざまなエクストリームスポーツを集めた世界最大級の競技大会。夏と冬の年2回開催される。

 

文、写真:河上 竜平

 

Part1はこちら>
Part2はこちら>

大舞台を前に、なごやかな選手たち

 

Xゲームズ本番の日がやってきた。ホテルで朝食をすませ、いつものようにユーチューブやインスタグラムを見るエマ。今日が本番とは思えないほどリラックスしている。

 

昼過ぎに会場に到着してからは、パークの会場を見にいったり、アスリートラウンジで友だちと遊んで過ごした。「めっちゃ楽しい!」と、エマは会場でも緊張する様子はまるでない。

 

やがて本番前のウォーミングアップの時間になった。みんなで仲よくバートへと向かう。バート競技特有なのかもしれないが、大会直前でもピリついた空気はない。選手同士がゆったりとしゃべりながら準備するのだ。Xゲームズデビューのエマにとって、この空気感はとてもありがたかった。ちなみに、スケートボードのほかの競技種目であるパーク、とくにストリートはピリついてる人たちが多いようだ。

 

「日本のコンテストより海外のコンテストのほうが楽しい」

 

エマはよくそう言う。滑りは真剣だが、会場での時間を遊びのような感覚で過ごせるからだろう。

 

 

練習に向かうエマの後ろ姿。異国の地で、たくさんのことを吸収している

Xゲームズ・ベンチュラのバートランプ。バートアラートのランプより高さが低い。会場にアジャストする適応能力も試される

エマが6歳のころから応援してくれている有名チームマネージャーのビル・ワイスと一緒に記念撮影

強風のなか、本番直前の練習

 

Xゲームズのバートで練習開始。まずはかんたんなエアーから始めたのだが、空中で体が振られる。

 

「今日も風強いわー」

 

天候ばかりは時の運だ。「危ないと思ったら、無理せず降りよう」とわたしたちは話した。それでも、エマは練習後半にランをメイクできた。

 

「本番で強い風が吹かなかったら乗れるわ」

入念に準備体操をしながら、集中力を高めていく。小さい体ながら、その姿はすでにプロフェッショナル

風に苦しめられたが、安定して900をメイクできるレベルまで合わせることができた

Xゲームズ、ランがスタート

 

ランの本番の時間となった。スケーターがバートの片側に集められ、順番に名前がアナウンスされていく。気づけば、バートのまわりは観客で溢れかえっていた。

 

余談だが、スケートボードでオリンピックの競技種目になっているのはパークとストリートのみ。でもXゲームズでもっとも集客力がある種目はバートなのだ。またスケートボードの本場のアメリカでは、バートは昔から人気競技だ。なぜバートがオリンピックに採択されなかったのか。その理由には諸説ある。バートに女子のクラスができたのが最近であるためか、アフリカ大陸の枠に女子のバート選手がいないことが理由のひとつだと聞いた。

 

ついに本番がスタート。エマの1本目は900※2でミス。タイミングがずれてしまったようだ。2本目。900を決めたあとのラン中盤で、キックフリップボディバリアル540※3をミスしてしまった。その前のトリックでバランスを崩し、立てなおそうとしたが高さを戻しきれなかったことが原因だ。3本目は900をきれいに着地し、キックフリップボディバリアル540も完璧にメイクしたのだが、最後からふたつ目のトリックであるバックサイド360※4でミスした。ラストチャンスとなる4本目。エマは覚悟を決めた。

 

「5本目はない。ミスるかもしれんけど、ラストは2連続の900にチャレンジする」

 

このバートでは高さが出てないし、風もあるからほぼ成功することはないだろう。それでも悔いが残るより、やりきったほうがいい。わたしは「バランスを崩したら乗らないこと。むずかしいと判断したら無理に乗らないで、かならず900をキャンセルするんだ」と伝えた。

 

結果は、1回目の900は成功。しかし、2回目で降りることになった。

 

「やっぱ乗れんかったわー」

 

エマは残念がったが、同時に満ち足りた顔をしていた。初めてのXゲームズは7位という成績だった。明日はベストトリックに出場だ。

 

 

※2 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
※3 空中で体を横に1回転半させるあいだにボードを横に1回転させるボディバリアル540に、ボードを縦に1回転させるキックフリップを組み合わせた高難易度トリック。
※4 空中で体とボードを一緒にお腹側へ1回転させるトリック。

本番直前の集合風景。体格差のある大人の選手を相手に挑む9歳

ラン終了後、インタビューを受けるエマ。サインを求めるファンも生まれた

本番以外は遊びの時間。コンテストが終わるや否や仲間とジェンガ

ウィズ・カリファのライブも観られて大満足。Xゲームズの楽しみは盛りだくさんだ

掟破りのベストトリック

 

「アーリー(ウープ)900※5決めたいなー。昨日ミスした900の2連続やりたいなー」

 

ベストトリック本番直前のエマはとてもワクワクしていた。ソルトレイクシティで開催されたバートアラート以降、アーリーウープ900は今日まで練習していない。きっとメイクできるだろうが、日常の練習でやりつづけるにはリスクが高い。ベストトリックでは、リスキーなためふだんは練習していないが、本番ではなんとか乗れるだろうという高難易度トリックを持ってくる選手が多い。つまり、なかなかお目にかかれないトリックが続出する貴重な機会なのである。ウォーミングアップでもエマは乗りにいかず、メイクできるギリギリのところまで調整した。ほかのスケーターも同様だった。

 

そして、本番が始まった。

 

「1本目から乗りに行く」

 

エマはそう言い残してバートへ上がった。そして、アーリーウープ900を1発でメイクした。これには会場も大盛り上がり。エマはライブで解説をしていたトニー・ホークのところへ駆け寄り、グータッチした。親としては感無量なシーンだ。

 

「さっき座って着地してもうたから、次は完璧にする」

 

続く2本目では、予告どおり完璧な着地を披露した。

 

「これがおれのベストトリックやから、3本目は昨日ミスった2連続900に
もう1回チャレンジしてみる」

 

エマはルール無視のチャレンジをしにいった。ベストトリックの競技では、ひとつのトリックしか評価されないのだ。2連続でメイクしても、ひとつ目のトリックにしか点数はつかない。エマは、トニー・ホークと会場を埋め尽くす観客に自分の最高の滑りを見てほしいだけ。

 

だがやはりこのバートではむずかしいのか、メイクすることはできなかった。ベストトリックの結果は6位。やりきったエマは、少し大人の顔になっていた。●

 

 

※5 背中側に向かって滑り、空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させながら、デッキのつま先側を後ろの手でつかむトリック。通常のバックサイド900と反対方向に飛び出し、着地位置も反対になることから難易度が高くなる。

コンテスト直後のエマ。悔いのない表情が清々しい。世界のトップスケーターが集まるXゲームズで、彼らのすごさを直接肌で感じられたことが何よりも今後の糧になることだろう。「今回、Xゲームズ出場という夢を叶えることができてすごくうれしかったし、楽しかったから、またXゲームズに出場できるように練習をがんばって、今よりもすごいランを見せたい」

ベストトリックで金メダルを獲ったのは、エマのあこがれギー・クーリー。「夢だったXゲームズで、あこがれのトップスケーターたちと一緒に滑れて最高だった。トップスケーターたちは、ランやベストトリックのコンテスト中もすごいけど、練習してるときとか、ちょっとスケートボードに乗るだけでもそのうまさがわかる」

コンテスト終了後、ベンチュラの海で遊べて喜ぶ姿はあどけない。今後の目標について、エマはこう語っている。「自分のやりたいトリックを全部入れた最高のランを成功させる。あと、世界で自分にしかできないトリックをつくることがいちばんの夢」

POSTED : 2024-10-19