文:原田 正規
現在、わたしのライフワークはサーフィンだ。
そこにいたるまでのあいだ、サーフィンを捨てて週6日働き、理不尽な対応や教え、矛盾に耐え忍ぶ社会を経験させてもらった。そのおかげで今がある。
ただ、このライフワークも一筋縄ではいかないという現実がある。サーフィンだけをしていたらいいなんてことは120パーセントありえない。わたしは今、サーフィンというカテゴリーのなかで自分が何をできるかを模索しながらやっている。
もう10年以上も前のこと。サーファーのバイブルだった『サーフィンワールド』がなくなった。長年日本のサーフシーンを支えてきた雑誌だ。スマートフォン全盛の時代になってからは、コンテストのライブ配信や世界各国のいい波でサーフィンしている映像が四六時中見られるようになった。新しい時代になりそのようによくなった部分もあるが、雑誌や本を手に取り、文字を読んで写真を見ることでこそ得られる「想像力」が失われた負の部分もあると感じる。よくも悪くも、芯の部分が薄れているように思えるのだ。
薄くなりつつある日本のコアなサーフシーン。わたしは現代のツールを使いながらも、ふたたびコアなサーフシーン、いわゆるソウルを求めている。
わたしが生きているあいだに失われたソウルを再現できれば、それこそが幸せにつながる。
今こうしてサーフィンに向き合う生活は、とても充実している反面、不安である。そのため、できるだけ外に出てサーフすることでアウトプットし、バージョンアップしていくことがわたしにとってもっとも大事な動きとなっている。
決まった時間に出勤する必要もないものの、自営業という立場であるため、やり出せばきりがないほどやることも多い。それでも、波が上がりそうなタイミングを狙い、時間をつくってサーフできる日々は特別だと思っている。平日の貴重なサーフセッションに身を置くとき、わたしはこの年齢でもプロサーファーとして生かされているありがたさをあらためて実感する。周囲の人たちが出勤する時間に海に入るわけだが、そこにはなんの罪悪感も抱かず、自信を持ってプロサーファーとしての使命をまっとうしたいと思っている。
わたしのライディングが表紙になった『サーフィンワールド』。雑誌のカバーショットを飾ることは、コンテストで勝利することよりも自分のなかで価値があった
POSTED : 2024-02-09