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夏休みの宿題

文:河上 竜平

 

長い夏休みに入ったエマ。スケートボード三昧の毎日と言いたいところだが、そうもいかない。わたしには仕事があり平日の昼間からエマを連れ出すことはできないうえ、暑くて練習にならないのだ。だから学校があるときと変わらず、ジースケートパークで週4回、夜に3時間程度の練習という日々を送っている。

 

エマの夏休みの1日はこんな感じだ。学校があるときよりもゆっくり起きて、学校や学研の宿題をしてから大好きなゲームをしたり、ユーチューブを観ながら夕方まで過ごす。そして練習がある日は少し軽めにご飯を食べて、スケートパークへ向かう。練習がない日の夜は家族でのんびりする。エマは学校も好きだが(勉強は嫌い)、ゆっくり過ごすことがとても好きなので、夏休みを彼なりに楽しんでいる。

 

夏休みのスケートボードの練習はふだんと変わらないのだが、2年前から宿題を設けている。エマが自分で成功させたいたと思うトリックを決めて、チャレンジするのだ。去年はバックサイド900、一昨年はボディーバリアル540だった。いずれも当時のエマにはハードルが高いトリックだったがクリアしてきた。今年の目標はキックフリップボディーバリアル540だ。空中で体を横に1回転半させるあいだにボードを横に1回転させるボディーバリアル540に、ボードを縦に1回転させるキックフリップを組み合わせた高難易度トリックだ。

 

過去にXゲームズなどバーチカルのトップクラスのコンテストでメイクしているスケーターが数名いたが、東京オリンピックのパークスタイルで金メダルを獲ったキーガン・パルマーが決勝でメイクしてみせたことでさらに注目を集めたトリックである。半年ほど前に遊び感覚で何度か試してみたことがあったが、まったくできそうになかった。しかし、エマにとっていつかかならず成功させたいトリック。今年の夏休みの宿題にすると自分で決めた。複雑で繊細な動きを求められるトリックだけに「さぁやってみよう!」でできるものではない。そのため夏休み前から、エマとわたしはキックフリップボディーバリアル540の動画を一緒に何度も観てはイメージを高めていた。

 

夏休み2日目のこと。チャレンジのときは突如として訪れた。その日は夜から練習をスタートし、いつも通りのメニューをこなしていた。パーク閉店20分前になり「そろそろ帰るか?それとも閉店まで軽くボウルでも滑るか?」とエマに聞くと、「キックフリップボディーバリアル540をやってみる」と言う。正直なところ、20分しかないのにできないだろうとも思ったが、やらせてみることにした。すると着地してからコケる、いわゆる「乗りゴケ」まで数本で持っていったのだ。イメージとはまだかけ離れているが、エマもわたしも「メイクできるかもしれない」と思った。しかしながら20本で閉店時間を迎え、最初のチャレンジはタイムアップとなった。

 

帰り道、エマに動画を観せて修正点を伝えた。根性論ではあるが、エマは「明日は乗れる。なんとか乗って耐えれば行ける」と初日としてはいい感触をつかんだ。

 

翌日の練習も夜からだった。エマが「今日中にぜったい成功させたい!」と意気込んでいたので、いつものメニューを早めに切り上げてキックフリップボディーバリアル540に取り組むことにした。昨日と同じように数本で乗りゴケまで持っていけたのだが、30本やってもメイクできない。惜しい状態のミスが続き、エマがだんだんとイライラしてくる。そうなると集中力が切れて雑な滑り方となり、成功から遠ざかっていく。エマは小学校低学年。まだまだ感情のコントロールがむずかしい歳だ。1時間ぐらい経ったころには暑さも重なりフラストレーションもマックスに。長めの休憩を挟み、そのあいだに惜しかった動画を観てふたりで修正点を考えた。わたしは「イライラしても仕方ない。ぜったいに成功できるから、1回1回ていねいに滑ろう」とエマに伝えた。そうして心を落ち着かせ、チャレンジを再開した。

 

ミスが数本続く。またしてもエマがイライラし出す。だがそのときだった。78本目、ついにメイクしたのだ。けっして完璧とは言えないが、根性で無理矢理乗って耐えた。エマは込み上げるもの感情そのままに、うれし泣きをした。
※ 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。

キックフリップボディーバリアル540をメイクした瞬間。夏休み3日目に課題をクリア。エマにとって最高な夏休みの1日。あきらめずにがんばったかいがあった

POSTED : 2023-08-07