文:原田 正規
わたしの仕事のひとつである「サーフレッスン」。一般的なサーフィンスクールとは違う概念として捉えていて、そう呼んでいる。初めてサーフィンをする人、そしてサーフィンのレベルアップを望む人のインストラクターとなり、プロサーファーとしての経験を生かして正しく指導、および稽古するのだ。
今年は新型コロナの影響が軽減したことによりサーフレッスンの参加者が大きく増えた。サーフィンを始める人の大半は学生や会社の仲間同士だ。さらに最近よく出会うのは、子どもにサーフィンさせたいという親御さん。子どもは小学生が多い。なかには20代前半の子どもとお父さんが一緒にレッスンに申し込んでくることもある。親子でサーフィンを始める光景は微笑ましい。とてもいい空気が流れていて、お父さんが思いっきりワイプアウト※1するとわたしは息子さんと笑い合い、「今のはヤバかったね!」なんて言いながら楽しくレッスンさせてもらっている。
十数年前、わたしはプロサーファー兼サーフショップ経営者だった。幼いころからサーフィンだけを貫いていた当時にくらべれば、今のわたしはゼロからサーフィンを始めようとする人の気持ちを考えられるようになった。サーフィンから離れた仕事をしてきた経験が身になっているのだ。あのときのままの自分であれば、身勝手な教え方と素っ気ない態度で対応していたかもしれない。 わたしは今、サーフレッスン参加者の基礎体力、テイクオフするためにもっとも必要なこと、そしてサーフィンの危険性、海の知識や基本的なマナーなど、自身の体験談をふまえた始めの一歩からのレッスンに取り込んでいる。
陸でのトレーニングは大切だ。それにより圧倒的に波に乗れるようになる。できなかったことができるようになり、一般的なレベルを確実に超えた自分を体験できる。陸トレを積むことで、スーパーサイヤ人になれると言っても過言ではない。鍛え方は人それぞれだが、やった分の見返りはかならずある。プロツアーをまわっていたころの自分は陸トレをたくさんやっていた。そのときのサーフィンが別格だったことを思い出す。
サーフィンは波に乗らなければ始まらないし、楽しくない。波というのは自分が待っているところへ勝手に来るものではない。波に乗るためのいいポジションを探し、そこを見つけたらパドリングで追いかける。そして波が今にも崩れそうな切り立った場所に身を置くことで初めていいライディングをスタートできる。
サーフィンとは、白波にただ乗ることではない。波の斜面を滑りながら上下にサーフボードを走らせ、爽快なスピード感を味わうのがサーフィンだ。何もしないで食べる昼飯より、サーフィンをしたあとの昼飯は格段にうまい。サーフィン後の心地よく疲れた体は心に癒やしをもたらし、そしてまた波に乗りたいという気持ちが細胞レベルでメラメラと湧き上がってくる。そうしてサーフィンによって交感神経と副交感神経のバランスがとれることで、とても健康になれる。そんなことが人間としてもっとも大切な部分だとわたしは思っている。
※1 ライディング中に転んで水中に落ちてしまうこと。
自分の子どもとサーフィンをすることは人生を豊かにしてくれる。そんなシンプルな幸せを広めたい
写真提供:原田 正規
POSTED : 2023-07-21