文:河上 竜平
バーチカル※1にはたくさんのトリックがあるが、なかでもエアーがとても重要だと思っている。エアーは基本と言えるトリック。しかしただ飛べればいいわけではなく、奥が深い。スケーターのスタイルがよく表れるのだ。
エアーだけで見る者を惹きつけるスケーターさえいる。エマが好きなエアーをするスケーターは、Xゲームズ※2で5大会連続でメダルを獲得しているアメリカのジミー・ウィルキンス。もちろんほかのトリックも世界トップクラスだが、ゆっくりとしたしなやかなエアーはエマのあこがれだ。
エマとわたしは相談しながらトリック練習を進めている。基本的な流れはこうだ。まずエマが行うと決めたトリックを事前にわたしがインスタグラムやユーチューブで学習し、いろいろなスケーターのトリック動画をまとめたフォルダをスマートフォン内につくる。そしてエマがそれらの動画を見ながら、自分の動画との違いを比較しながら自分で考える。技術的なことでわたしに気づいたことがあれば、アドバイスをすることもある。
スタイルに関して、わたしはエマに口出ししないようにしている。エマはまだ小学3年生で体も思考も幼い。スタイルは、これから成長していくエマが自分でいろんなことを吸収しながらつくり上げていくべきものだと思っている。スタイルの在り方まで指示することは、エマのスケートボードの幅を狭くすると感じるのだ。でもひとつだけ、「自分がやりやすい滑り方より、自分が格好いいと思う滑り方をしなさい」とだけ伝えている。とはいえ、本人はまだスタイルについて深く考えて滑ってはいないようだ。今の滑りは子どもっぽくて粗削り。エマはどんなスタイルのスケーターに進化するのだろうか。それを見るのがわたしの楽しみのひとつでもある。
スタイルにならびエアーで重要なことは、なんと言っても「高さ」だ。日々、少しずつでも高さを上げる練習を小学1年生のころから重ねている。ハイエアーの明確な定義はないが、わたしたちは自分の身長を越えればハイエアーと決めた。エマの身長は現在123センチなので、それを超えればハイエアーだ。現在のエマが飛べる高さは、バックサイド※3が200センチ。フロントサイド※4はそれより少し高いくらい。どちらも自分の身長は越えたハイエアー。次の目標は250センチだ。
※1 スケートボードの競技の一種。最上部が垂直になったハーフパイプ状の巨大構造物をコースとして競い合う。
※2 さまざまなエクストリームスポーツを集めて夏と冬の年2回開催される世界最大級の競技大会。
※3 体を切り返すときにお腹側へまわること。
※4 体を切り返すときに背中側へまわること。
フロントサイドのハイエアーの練習風景。毎回の練習で数本のハイエアーにチャレンジする。エアーについて、エマはとにかく「高く飛べるようになりたい」と言いつづけている
POSTED : 2023-07-06