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子どもたちのサーフィン大会

文:原田正規

 

6月はNSA※1公認の大きな大会がふたつあった。茨城県日立市にある河原子北浜ポイントでのAAA横乗りカップ2023と福島県四倉海岸で開催された第40回全日本級別サーフィン選手権大会だ。長女のコアはロングボードウィメンクラス、長男のカイマナはショートボードのキッズクラスにそれぞれエントリーした。

 

NSAの大会は規模によってAからAAAまでのグレードに分けられる。そして出場選手には大会のグレードと順位に応じたポイントが与えられ、年間チャンピオンが決まる。サーフィンがオリンピック種目になったことや日本人で初めてCT※2にクオリファイした五十嵐カノアの影響もあり、この国内アマチュアサーキット戦は日本各地で以前よりひんぱんに開催されている。

 

AAA横乗りカップ2023でコアのヒートが行われた日は胸から肩サイズのグッドコンディション。練習でも調子がよかったコアはいい波に乗った。ひとつの波でハングファイブ※3を2回決め、最後にローラーコースター※4と得意のルーティンで準決勝を勝ち抜き、決勝へ進出。そして決勝でも堂々としたライティングを見せつけて今季初優勝を勝ちとった。この勝利はわたしにとっても大きな意味を持つ。なぜならば、わたしがシェイプしたロングボードでコアが初めて手にした優勝だったからだ。

 

カイマナの出番はその翌日。同じヒートにはキッズクラスランキング1位のタイトくん、そして千葉でよく一緒に練習しているコウマくんがいた。ふたりともカイマナよりふたつ年上の先輩だ。小学生にとって2歳の違いは大きい。ヒート開始直後、カイマナのところにいい波が来る。だが手前にポジショニングしていたタイトくんが自分に優先権があると見せかけてカイマナにプレッシャーをかける。本来ならばその波に乗っていいはずのカイマナはすぐさまパドリングをやめた。タイトくんはカイマナの様子を確認して波に乗り、ハイポイントを出した。続いてコウマくんにも同じような戦略で波を奪われてしまった。カイマナは波に乗れれば勝てるレベル。しかし、勝つために容赦のない先輩たちの圧力になす術がない。結果いい波をすべて奪われ、1回戦で敗退してしまった。泣きながら海から上がってくるカイマナ。くやしそうだった。でもこれが勝負の世界。こうした経験を小さいころからたくさん積むことでストロングコンペティターに成長できる。

 

翌週に開催された全日本級別サーフィン選手権大会は、年齢に関係なく、同じ級を持った選手同士が戦う。ここでもコアはロングボードウィメンクラスにエントリー。ロングボードウィメンは人数が少ないため、1級から4級保持者までの全員が同じ枠組みで競い合う。ちなみにコアは4級だ。カイマナは年齢制限のない総勢100名がエントリーする3級のショートボードクラスに出場した。

 

この日の四倉海岸の波は小さく、オンショア※5のシャバシャバ波。ロングボードウィメンズの選手たちは距離の短い波に手こずっていて、いい波に乗った者勝ち。最初のヒートを見て、コアが苦手とするコンディションだとすぐにわかった。そのことをコアに伝え、早めにスコアを出す作戦を立てる。1回戦こそあやうく負けそうになったものの、決勝までほかの選手を圧倒。ここでもコアは優勝を飾った。コアの勝負強さがほかの先輩たちより頭ひとつ出たように見えた。

 

そして前回くやしい思いをしたカイマナの出番。セット※6をつかむ作戦だ。カイマナは狙いどおりセットの波に乗ると、大きなボトムターン※7で早めの波に合わせてワンアクションを決めてまずまずのスコアを出す。この作戦で準決勝まで勝ち上がった。準決勝まで来るとさすがに選手のレベルが高い。カイマナにとっては大人たちとの戦いだ。カイマナは作戦どおりに手堅くスコアを重ねたが、予選とはまるでレベルが違う相手はハイポイントを叩き出す。だが最後のチャンスとなる波を捉えたカイマナはフルスピードでオフザリップ※8を決める。そしてその波で連続してローラーコースターを試みるが、ここでワイプアウト※9。この失敗がなければ逆転できて決勝行きだっただけに、またしても目に涙を浮かべ、くやしそうに海から上がってきた。幼いながら、真剣勝負をしているのだ。

 

 

※1 日本のアマチュアサーフィンにおける最大の組織、日本サーフィン連盟の略称。
※2 世界のプロツアーを運営するワールドサーフリーグ(WSL)による世界最高峰のワールドツアー「チャンピオンシップツアー」の略称。
※3 サーフボードの先端に片足の5本の指を掛けるテクニック。
※4 前方から崩れてきた波にサーフボードを当て込むテクニック。
※5 海から陸に向かって吹く風。風が波を潰してしまうので、基本的にはサーフィンに適さない。
※6 その日のなかでも大きなうねり。何本か連なって沖からやってくる。本数や周期はコンデションによって異なる。
※7 波の底の部分で行うターン。波が立ち上がる力を使って上に向かう。
※8 波が崩れる間際の上部でサーフボードを急激に切り返すテクニック。
※9 ライディング中に転んで水中に落ちてしまうこと。

AAA横乗りカップ2023の表彰台に立つコア(左)。今まさに絶好調で、年上の選手を相手に臆することなく勝利を重ねている

写真:原田 正規

カイマナも経験を積んで着々と強くなっている。全日本級別サーフィン選手権大会の内容は悪くなかった。わたしは健闘を褒めつつ、ワイプアウトしたことを課題に次につなげようとアドバイスをした

写真:原田 正規

POSTED : 2023-06-29