文、写真:河上 竜平
次男のヒイロは現在7歳。スケートボード歴は、兄のエマと同じである。エマが4歳でスケートを始めたとき、同時にヒイロにもボードを買い与えた。ヒイロは当時1歳だった。最初はボードの上に座って遊ぶ程度で、練習にもたまについてくるくらい。スケートボードよりもキックボードに夢中だった。しかし、保育園の年中になるころから少しずつ滑りはじめるようになった。だが、真夏の暑い時期には2か月ほどあいだが空くこともあった。
いっぽうのエマは日々滑り込んでいたが、その9割はバーチカルでの練習であり、ヒイロと一緒に滑ることはほとんどなかった。ヒイロには同年代のスケート仲間もおらず、いつもひとりで滑っていた。ふつうであれば、そうした状況では飽きてしまいがちだが、ヒイロは純粋にスケートが好きらしい。フラットなエリアに障害物を置いてジャンプしたり、自分なりに工夫しながら滑っていた。やがてランページも少しずつ使えるようになり、自主的にユーチューブやインスタグラムでトリックを調べるようにもなった。そしてエマの動きを観察しつつ、独学で技を学んでいった。やがて、エマが滑らない日でも「ほかのパークに連れていってほしい」とわたしにせがむほどスケートボードにのめり込んでいった。
わたしはヒイロに対して技術的な指導をすることはほとんどない。そのため、エマとくらべると技数は少なく、上達のペースはゆっくりである。それでもヒイロは黙々と練習を重ね、自分なりに考えながらうまくなっている。その姿を見るたび、わたしは本当に感心している。ある意味では、ヒイロのほうが「スケーターらしい」とも言える。
そんなヒイロが、今年に入ってバーチカルのドロップインに初めて成功した。そして、ついにエマと並んでバーチカルの練習を始めた。兄弟で同じセクションを滑る日が来ることを夢見ていたわたしにとって、それは待ち望んでいた瞬間だった。ヒイロは慎重な性格だ。そのため、現時点ではバーチカルから数センチ飛べる程度である。それでも日々自分で目標を立てて、地道に努力を重ねている。
わたしとしては、ヒイロがエマと切磋琢磨し合えるような存在に育ってくれたらと願っている。ただ、スケートを続けていれば、かならず「壁」にぶつかるときが来る。エマはその壁を「壁」とすら思わず、気合と根性で乗り越えてきた。具体的には、バックサイド540※1やキックフリップインディ※2といった、誰もがあこがれるトリックが壁である。コンペティターを目指す多くのスケーターが挑戦する技だ。それらのトリックを「あたりまえ」に決めるには膨大な反復練習が必要で、完全に習得できる人の数は多くない。
そうしたトリックをものにしたあとには、さらに高い壁が待っている。フェイキー720※3のような超高難度トリックだ。バックサイド540よりも180度多く回転するこの技を完璧に決められるスケーターは、日本国内だと10人程度だろう。このレベルになると、世界的に見てもマスターしているのはごく一部のスケーターのみ。幼いころから上手で将来を期待されていた子がその「壁」にぶつかってスケートボードをやめてしまうこともあれば、始めたのが遅くても、すんなり越えていく者もいる。
スクールに通ったり、環境に恵まれていても、すべての人が同じように成長できるわけではない。現実はそう甘くない。もちろん「壁」を乗り越えることだけがすべてではない。身の丈に合ったトリックの幅を広げたり、スタイルを追求したり、できるトリックの精度を高めることで楽しむ方法もある。けれどもわたしとしては、ヒイロがいつかこの「壁」を超えてくれたらやっぱりうれしい。でもそれ以上に、これからも自分らしくスケートを楽しんでほしい。そして何より、スケートが好きだという気持ちをずっと大切にしてほしい。
※1 空中で体とボードを一緒にお腹側へ1回転半させるトリック。
※2 空中でお腹側に飛んでいる最中に、ボードを縦に1回転させてからボードをつかんで着地するトリック。
※3 通常と逆のスタンスで滑り、空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
エマと一緒にバーチカルを滑るようになったヒイロ。いつまでも、ふたりそれぞれのやり方でスケートボードを楽しめるように、親としてサポートしていきたい
POSTED : 2025-05-14