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トリックに取り組むということ

文、写真:河上 竜平

 

エマは今までスケートボードを始めてから、たくさんのトリックにチャレンジしてきた。

 

直近ではフェイキー1080※1に挑戦して、成功させた。年明け最初のブログ「2025年の抱負」にも書いたのだが、エマにとってこのトリックはとても思い入れが強く、「最年少でメイクしたい」と言い続けてきた。その日、「フェイキー1080をやる」と決めてから練習を開始して1時間、10本程度でメイクしたのだが、かんたんではなかった。

 

このトリックにチャレンジするために、元となるトリックを何千回も練習してきた。それは、バックサイド900(以下、900)※2だ。900に挑戦しはじめたときも、エアの高さをアップさせたり、バックサイド540※3も何千回と練習してきた。すべてがつながっている。それらの積み重ねがあったからこそ、フェイキー1080を成功させることができた。

 

新たなトリックにチャレンジするにあたって、どれだけ練習を重ねても壁となるのが恐怖心だ。メイクするためには、このなくすことができない恐怖心と向き合い、うまくコントロールする必要がある。

 

少し話は変わるが、最近とても印象的なできごとがあった。先日開催されたXゲームズ・アスペン大会のスノーボード男子ビッグエアで、荻原大翔選手が2340※4、長谷川帝勝選手がキャブ2160※5を世界の大会で初めて成功させ、ワンツーフィニッシュを飾ったのだ。メダル獲得と世界初という偉業に驚嘆した。きっと幼いころから練習をしつづけ、恐怖心とつねに向き合ってきたのだろう。並大抵の精神力ではない。エマがスケートボードでチャレンジしつづける姿を見ているわたしは、彼らのすごさに心底感動した。

 

ただ楽しみながら取り組めるトリックももちろんある。しかし世界トップレベルのトリックともなると、かならず恐怖心はつきまとう。そうしたレベルのトリックでなくても、できないことに挑戦する人は、それぞれ恐怖と向き合いながらみんなチャレンジしているはずだ。またそのトリックをメイクしたからといって、すぐにコンテストで使えるレベルになるわけでもない。安定して繰り出せるようになるのに何年も掛かることもある。そして恐怖心は、薄くなることはあっても、けっして消えることはない。トリックを成功させるための理解やイメージはあっても、怪我をしたり人の失敗を見てトラウマとなったり、恐怖心が邪魔をして思うように体が動かずにメイクできないこともある。

 

エマの場合は、成功を繰り返しイメージすること、自分や他人がメイクした動画を見て研究すること、タイミングが合わなかったときにトリックの途中でキャンセルする方法を考えながら、何度も何度も練習を重ねる。そうして自信をつけて、恐怖心と向き合い、その壁を乗り越えるようにしている。

 

 

※1 フェイキー(後ろ向き)で進み、空中で体とボードを一緒にお腹側へ3回転させるトリック。
※2 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
※3 空中で体とボードを一緒にお腹側へ1回転半させるトリック。
※4 空中で体とボードを一緒にお腹側へ6回転半させるトリック。
※5 フェイキー(後ろ向き)で進み、空中で体とボードを一緒に背中側へ6回転させるトリック。

エマの相棒。長さ75センチ、幅19センチのデッキ。自分の体やスタイルに合ったギア選びもトリックをメイクするうえで重要だ

POSTED : 2025-02-10