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夢のXゲームズ Part 2

PLAYERS : EMA KAWAKAMI

TOP STORY 夢のXゲームズ Part 2

河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI

 

夢のXゲームズ
Part 2

 

アスリートラウンジ、公開練習、前夜祭。エマは選手として、Xゲームズ※1の舞台を踏む。

 

※1 さまざまなエクストリームスポーツを集めた世界最大級の競技大会。夏と冬の年2回開催される。

 

文、写真:河上 竜平

 

Part1はこちら>

慣れない左ハンドルで会場へ

 

Xゲームズ・ベンチュラ大会は6月28日がラン、6月29日がベストトリックという日程。その前2日間が練習日となっていた。とはいえ、会場で滑れるのは1日あたり2時間程度と短い。28日の公式練習のスタートは午後からだったが、様子を見るため早めに会場へと向かった。

 

宿泊しているオックスナードからベンチュラの会場までは車で約30分。わたしは左ハンドルの車を運転したことはない。海外での運転も初めてだ。昨日は、フリーウェイがロサンゼルスからずっと渋滞していたため気づかなかったが、とにかく飛ばしている車が多い。フリーウェイの降り口の案内も日本と異なり、直前に現れるのでとまどった。

慣れた日本車がいいのでプリウスを借りた。国が違うと雰囲気が違って見えるから不思議だ

アスリートラウンジでトップライダーと交歓

 

Xゲームズ会場の関係者入り口はとてもわかりにくかった。おまけに、案内する警備員は英語しか話せない。そのときあらためて英語習得の重要性を感じた。来日中だった中国人スケーターの保護者から、中国の小学校では授業の1/3は英語を使っていると聞いたことがある。日本も見倣うべきだと心底思う。

 

受付をすませてアスリートラウンジへ入ると、スケートボード、モトクロス、BMXの大会に出場する選手たちがくつろいだり、食事をしたり、マッサージを受けていたりしながら和気あいあいと過ごしている。エマに物怖じする素振りはない。さっそく有名なスケーターを見つけては、喜んで話しかけている。バートアラートで900を3連続でメイクした動画がバズったせいか、声を掛けられることのほうが多かった。

 

そして、念願のバーチカルランプ(以下、バート)へと向かった。昨年のXゲームズ千葉でエマが「いつか滑ってみたい!」と言っていたバートが今、目の前にある。さっそく上に登る。まだ練習時間ではないので滑ることはできず、癖や実際の感触はわからないが、エマは興奮している。

 

「どんなバートだったとしても、全力で滑る!」

 

バートの上からは広い会場を見渡せる。ヴェンチュラの海も眺めることができて最高だ。その後、ひととおりパークやストリート、BMX、モトクロスなどのステージを見学して、ふたたびアスリートラウンジへと戻った。

アスリートラウンジの光景。池田大輝、ギー・クーリー、アリサ・トゥルーなど世界で活躍する若手みんなでジェンガ。そこにエマが加わっていることがいまだに信じ難い

プロスケーターのアダム・テイラーと一緒に。エマが6歳のころから注目してくれて、ダイレクトメッセージでやりとりしている仲だ

あこがれのスケーターたちと一緒に練習開始

 

練習時間が近づくとともに、アスリートラウンジから会場へと、出場メンバーが続々と移動しはじめた。バートアラートでもそうだったが、エマやわたしにとってはあこがれのスケーターばかり。彼らがXゲームズのバートを滑っている姿をインスタグラムやユーチューブで何度となく見てきた。だから彼らを見ること自体に違和感はないのだが、そこにエマとわたしがいることが不思議でしょうがない。そんなわたしの気持ちをよそに、みんなやさしく、気さくに声を掛けてくれる。

 

運営スタッフがバートの最終チェックをしているところで、ギー・クーリーがバートに入った。エマも続く。そうして、まるで遊ぶかのように10代の若手がどんどん滑り出した。いっぽう、20代以上のライダーたちはゆっくりと準備をしつつ談笑している。全員が、これから「コンテストで競い合う」というよりも「セッションを楽しむ」感覚を共有している。

 

「海外のコンテストはとても楽しいし、まったく緊張しない」

 

エマはのちにそう言っていた。バートアラートでも同じことを感じていたという。選手みんながおたがいをリスペクトし、仲間のベストなランを心から望んでいるからこそ生まれる独特なムードだ。

 

そんななごやかな雰囲気のなか、順調に練習を重ねていた。だが、風に苦戦を強いられた。海側に設置されたバート付近で強風が吹いているのだ。これにはスケーター全員が手こずっていた。

 

「スピードが思うように伸びへんし、あおられるからちょっとしんどい」

 

エマはそうこぼしながらも「でも、やれんことはない」とルーティンをメイクしていた。納得はいっていないようだが、終始ポジティブだ。

 

「風あるのはみんな一緒やからがんばる。それより、ヤバい人らと一緒滑れるからおもしろい」

初日の練習はあっという間に終了。Xゲームズのランの演技時間は30秒。約11個のトリックでラインが構成される。この日、ラインを通せたのは1本。しかも納得のいく完成度ではなく、なんとか乗れた感じだったが、深追いせず、明日の練習でさらに調整しようとバートをあとにした

練習2日目。パーク男子の練習を見学する。トッププロの差し合い※2は半端じゃない激しさだった

※2 その場の空気を読んで、コース内に順番関係なしに入ること。同時に数名が滑るタイミングもあるため危険がつきまとうが、迫力もある。ローカルコンテストでは差し合いが原因で揉めることも。

公開練習2日目。強風を見越した最終調整

 

翌日、少し早めに会場入りし、パーク男子の練習を見にいった。パークライダーにも、エマが好きなスケーターがたくさんいる。なかでもギャビン・ボットガーは、エマが保育園生のころからあこがれている存在。ギャビンは幼少期から有名で、今やアメリカのトップスケーターだ。パリオリンピックのアメリカ代表でもある。

 

わたしは、Xゲームズに出場することはないだろうと思われていたグラント・テイラーが参戦すると聞いたのでとても楽しみにしていた。グラントは『スラッシャーマガジン』誌が年に1度発表するSOTY(スケート・オブ・ザ・イヤー)を獲得していて、スケートムービーのビデオパートでよく知られている。

 

前年のXゲームズを見にいったときと同様に、パークはとにかく差し合いだ。世界トップクラスの差し合いなのでとても激しい。大きな事故が起きないのは、全員のスキルがとんでもなく高い証拠だ。

 

ひととおり見学を終えて、バートの練習である。この日も風が強かった。きっとここは年中風が吹いているのだろう。「本番も風が吹いていることを前提に練習しよう」とエマと話した。高いエアーをしたときに、強風の影響で着地位置が奥や手前へずれるととても危ない。だからいつも以上に無理をしないことが大切だ。

 

まずはラインを分割して調整を開始。それから明日の本番に向けて、ラインをフルで通した。あまり完成度を上げることはできなかったが、昨日よりはラインをフルで通すことができた。

 

「だいぶXゲームズのバートに慣れてきた」

 

エマはずっとポジティブだ。

ギー・クーリーと友だちみんなと練習の合間に記念撮影。言葉が通じなくても、スケーターたちは滑りを通して同じ気持ちを分かち合える

公式練習2日目の夜、明日からの本番に向けてXゲームズがライダーや関係者に向けてパーティーを開催してくれた。その前夜祭ではキッズたちも大盛り上がり

つづく>

 

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POSTED : 2024-09-12