STORY

バートアラート2024 Part 2

PLAYERS : EMA KAWAKAMI

TOP STORY バートアラート2024 Part 2

河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI

 

バートアラート2024

Part 2

 

エマ、初めてのアメリカ。ついに世界のトッププロスケーターたちと肩を並べて戦う日がやってきた。

 

文、写真:河上 竜平

 

Part1はこちら>

トニー・ホークがつくった舞台

 

6月13日の朝。いよいよバートアラートの会場に向かう。ホテルから徒歩で10分くらいの距離。途中、アメリカ軍の車両が止まっているエリアを抜ける。日本では見かけない軍用車にエマは興味津々だ。

 

到着した会場は壮大なスタジアムだった。バーチカルの上部にはド派手な大型モニター。観客席の上にもモニターがついている。

 

「こんなとこで滑るんや!ヤバい!」

 

スタジアムに行ったことなかったエマは、あまりの大舞台に興奮してた。

初めて会えたトニー・ホーク。切磋琢磨している仲間、西川 有生くんと一緒に。エマは終始目を輝かせていた

準備万端。公式練習の手ごたえ

 

大会前日、13日に行われる公式練習の時間は1時間半。翌14日はもう予選だ。つまり、コンテストでやるラインをその短時間だけでメイクできるように調整しなければならない。

 

トニー・ホークがつくったバーチカルランプは、ふだん練習しているランプよりも幅が広い。まずはイメージしてきたラインを滑れるのか確認し、そのうえでエアーの高さとトリックの精度を高めないといけない。口で言うのはかんたんだが、実際にやるとなると複雑で大変だ。しかし、今のエマにたくさんのことを言いすぎても混乱してしまうはず。なにせまわりは世界のトップスケーターばかりだ。うれしさもあれば、緊張もあるだろう。わたしは「怪我しないように、ひとつずつ集中して合わせていこう」とシンプルな心構えを伝えた。わたしの心配をよそに、エマは冷静そのもの。自分がやるべきことを十分に理解していた。

 

「まず全部乗って、高さ上げる。いつもやってるラインやし、バーチも滑りやすそうやから大丈夫」

 

公開練習開始後、エマは30分でラインを通した。トニー・ホークのバーチカルが運よくエマのラインにフィットしやすかったこともあるが、何よりも、日課にしていたラインだったので動きが体によく染みついていたのだろう。精度の高さもホームパークで滑るときをほぼ変わらない。そのため無理な練習はさせずに、余裕を持って公式練習を終えた。

舞台は、トニー・ホークのパークから移設した巨大なバーチカルランプ。ランプの上に立つ小さなエマにはどれほどの高さに見えているのだろう。さすが「スケートボードの神」トニー・ホークがつくっただけあって、継ぎ目がほとんどない。エマにとっても滑りやすい印象だった

あこがれのギー・クーリー(左)、そしてロニー・ゴメスというブラジルのトッププロたちと会場で記念撮影

バーチカルの裏でスティーブ・キャバレロと再開。いつもエマを見守ってくれているスケートボード界のレジェンド

名物MCセルマーはキッズたちに大人気

ついに本番。予選スタート

 

予選当日。エマのヒートと滑走順がわかった。ヒート1の1番手だ。目立つ順番にエマは喜んでいた。

 

「いつものラインは問題なく乗れるから、乗れたら連続で900※2をする」

 

そして予選開始前のミーティングで細かなルールも知った。基本の制限時間は30秒だが、それ以降に決めたワントリックも加点対象になるという。エマが組んだラインは30秒以内の予定だった。それであれば最後にビックトリックを加えてチャレンジしようと、現在練習中のバックサイドフリップリップスライド※1を選択した。展開が変わろうと、エマに緊張の素振りはない。

 

いよいよコンテストが始まった。エマの姿が大きなスクリーンに映し出される。バーチカルの目の前の実況席には、「スケートボードの神」と呼ばれるトニー・ホーク、そしてスティーブ・キャバレロやマイク・マックギルなどレジェンドがいる。名物MCのセルマが実況中継を行い、奥にはXゲームズ※3で何度となく優勝したバッキー・ラセックの姿も。その脇にはトニー・ホークチームのメンバーとX ゲームズ関係者。何より信じられないのは、バーチカルのプラットフォーム上に、今までずっとスマートフォン越しにインスタグラムやユーチューブで観つづけてきたプロスケーターたちがいること。エマがスケートボードを始めて5年。ついに、こんな大舞台に立つことができたのだ。エマはそこにいるのがあたりまえかのように落ち着き払っていたが、わたしは感無量だった。

 

今大会において注目度の高かったエマへの歓声は大きい。エマは期待に応え、予選1本目からランをパーフェクトに決めた。コンテストの1番滑走で1本目から決めるスケーターは数少ない。ハートが強かったエマは、ファーストランでヒート1の2位につけた。

 

どれくらいで決勝に上がれるかわからなかったので、予選から全力で行く作戦。エマは今度こそ、昨年のウィングラムカップであこがれのギー・クーリーに見せられなかったバック・トゥ・バック900※4を、今ふたたび眼前にいるギー・クーリー、そしてトニー・ホークの目の前で乗ると決めていた。そこでチャレンジ。エマは見事にメイクした。トニー・ホークを筆頭とするプロスケーターたちはもちろん、観客全員が一体となり、会場は大盛り上がりとなった。

 

こうしてエマが戦ったヒート1が終わり、ヒート2が行われた。最終結果は、まさかの予選6位とランクイン。明日の決勝に進出だ。わたしは震えた。当のエマは大喜びのハイテンション。

 

「明日も滑れるし、相手はヤバいやつばかりやん!」

 

 

※1 お腹側に飛んでいる最中にボードを縦に1回転させて、さらにコーピングにボードを乗せて滑らせながら降りるトリック。
※2 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
※3さまざまなエクストリームスポーツを集めた世界最大級の競技大会。夏と冬の年2回開催される
※4 2連続の900。

 

エマが見せたバック・トゥ・バック900。公式戦で世界初の快挙に会場中から歓声が上がった。さらにラインを最後まで通したことにも驚いた

レジェンドスケーターのバッキー・ラセックもエマの滑りに興奮してくれた。まさに夢のような話だ

つづく>

 

Part1はこちら>

POSTED : 2024-07-23