PLAYERS : MASAKI HARADA
原田 正規
MHASAKI HARADA
Sリーググランドファイナル24-25
Sリーグマスターズツアーに参戦する原田。昨年8月の茨城戦、10月の伊豆戦を経てランキングは3位。グランドチャンピオン獲得を懸けた最終戦が始まった。
文:高橋 淳
写真:飯田 健二
開幕直前、高まる波への期待
2025年4月15日。季節は確実に春へと移ろい、昼間の潮は大きく満ち引きするようになった。Sリーググランドファイナルが開催される千葉・釣ヶ崎海岸、通称「志田下」の波がよくなる季節だ。強い南西風とともに低気圧が日本列島を通過していく。グランドファイナル開催前日となるこの日、大きな南うねりを受けて波は炸裂。ときおりチューブもあるオーバーヘッドのグッドウェイブが立った。
大会に向けて連日調整を重ねる原田の姿は、この日も志田下にあった。早朝から海に入り、準備万端の様子だ。
「体の調子はいい。あと必要なのは波。相手はみんなプロサーファーだから、ライディングはそこまで大きくは変わらない。もちろんサーフィンは負けてない。波があることを願って、本番を楽しみたい。試合は、余計なものが頭のなかをよぎると楽しめなくなっちゃう。そういうものを除外して、プロサーファーとしておもしろさを見せられるような集中力を持って戦いたい」
海を見つめ、自分のリズムを整えていく原田。大会会場の志田下は、1200年以上の歴史と伝統を誇る上総十二社祭りの祭典場となっている神聖な海岸。そして、トッププロサーファーを数多く育て上げてきた「波乗り道場」と呼ばれる日本屈指のサーフポイントだ
グランドファイナル開催前日、はるか沖からブレイクする波。プロレベルのサーファーのみサーフ可能なコンディションだった
練習中、終始アグレッシブなサーフィンを見せていた原田。「『こいつ来てる』っていう感じのサーフィンを見せられて、大会を盛り上げて終われたらいい」
グランドファイナルスタート。初日はヒートが行われず
16日、グランドファイナルが始まった。ただしこの日は、ショートボード男女、ロングボード男女それぞれのラウンド1のみというスケジュール。マスターズは翌17日のスタートだ。
朝一はオーバーヘッドの波がブレイクしていたものの、時間を追うごとにみるみるサイズダウン。連日のしけで地形も決まっていない。とはいえ、志田下は国内随一のサーフポイントだ。ときおりチューブもある。しかし午後には、ロングボード向きの腰腹セット胸サイズまで落ち着いてしまった。
この日、十分調整ずみの原田はサーフィンをすることなく、明日に向けてひとり静かに過ごしていた。
Sリーググランドファイナル24-25。今大会をもってグランドチャンピオンが決定する
左から田中英義、大原洋人、馬淵昌也一宮町長、稲葉玲王。開会式にて、一宮町出身のトッププロサーファーたちと町長によるファーストライドセレモニーが行われた
サーフタウン一宮の町長が波に乗り、グランドファイナルが幕開け
このトロフィー獲得を懸け、選手たちは火花を散らす
願い叶わず、小波の戦い
そして、試合当日。原田は早朝6時すぎに会場に入った。海を見ると、弱いオフショア※1が海面をきれいに整えている。しかし、肝心の波のサイズはもも〜腰程度とさらにダウンしていた。
軽く海に入り、ウォーミングアップをすませた原田は若干緊張気味だ。ヒートは午後からの予定。一度自宅に戻り、リラックスしてくるという。
※1 岸から海に向かって吹く風。風が海面を整えるのでサーフィンに適しているが、強すぎると波に乗りづらい。
最終戦はまたしてもスモールウェイブでの戦い。波数も少なく、運が大きく左右するコンディション
早朝、緊張の面持ちで海を見つめる原田。サイズダウンによる残念な気持ちを切り替え、この日、どこで波がブレイクするかを見極める
小波でもサーフィンは絶好調。戦いに向け、体を絞り込んできた成果だ
海を見つめつづける緊張の時間
原田は13時すぎにふたたび会場入り。潮が大きく引き、それにともない波はいちだんとパワーがなくなっている。
「ゾクゾクする。作戦は、とにかく早くテイクオフ。そしてつないで、少しでもセクションが出たらアクション」
年明け早々に盟友の市東重明と話した際に出た「試合は膝腰(の波)でもやる。それでもやっぱスコアする技を出さないといけない」という言葉が頭をよぎる。一度弱まっていたオフショアが再度強まり、波は時間を追うごとにサイズダウンしていく。
ロングボード男子のヒートが終わり、ついにマスターズの試合がスタートした。シード選手である原田の最初の出番はクォーターファイナル(ラウンド2)の4ヒート目だ。しかし14時45分、ラウンド1のヒート1が終わったところで、大会のシステム調整のためにウェイティングすることになった。その間に干潮をまたぐ。原田は海を見つめつづけた。潮が上げて、少しでも波のコンディションが上向くことを願いながら。
ヒートを待つあいだに長男カイマナが登場。ヒート中、どのピークを狙うか話し合う。最近大会で好成績を収めているカイマナは、幼いながらもすでによき相談相手だ
対戦相手はご覧のメンバー。試合巧者ぞろいで、けっしてかんたんなヒートではない
全力を出しきるも、波は原田に味方せず
試合再開まで待つこと1時間。潮が上げて風が弱まり、サイズはもも前後と小さいながらも、若干コンディションが上向いた。16時半、この日の最終ヒートとなる原田出番がやってきた。
原田と脇田はこれまで比較的コンスタントにブレイクしていた会場左側のピーク、遠田と今村は緩慢ながらも長くつなげられる波が入りはじめた右側へと二手に分かれた。原田は先手必勝と言わんばかりに、開始早々クリティカルなリッピングを繰り出し4.0※2をスコア。さらに5分後、力強いカービングスナップを決める。しかしフィニッシュをメイクできずに3.75止まり。だがそのあとすぐに3本目に乗り、好調をアピールした。だが全体的に波数は少なく、サイズもかなり小さい。厳しい戦いであることに変わりはない。
残り10分。今村と遠田がいる場所に波が入り、ふたりが長めのライディングをスコアし、点数を伸ばしていく。原田が3位という流れが続き、残り3分。ファーストプライオリティ※3を持つ脇田と同じ波を狙っては勝ち目がないと、今いるポジションを見きった原田は、右側のピークへ移動する。必要なポイントは4.9。波さえくれば、十分逆転可能だ。
すると、脇田のもとにセットが入った。脇田はバックサイドで2アクションを決め、いっきにトップに躍り出た。ここで万事休す。原田は敗退。Sリーグ初代グランドチャンピオンの夢は消えてしまった。
※2 ライディング1本の最高得点は10点。Sリーグの大会ではヒート中のベスト2スコアの合計点で勝敗が決まる。
※3 ヒート中、それぞれの選手に順番に与えられる優先権。ヒート開始直後のプライオリティ(優先権)が誰にもない状態で、最初に波に乗ったサーファーからプライオリティの順位がいちばん低くなる。その後、次のサーファーが乗るとプライオリティの順位が繰り上がっていく。
プロのステージ。ゲートを抜けて、いざ勝負へ
ヒート開始が伸びたことで、妻さとみと長女コアも応援に間に合った。原田にとって、そばにいる家族の存在は何よりも力になる
コンディションを見据え、全力でヒートに臨む姿が印象的だった。その集中力は、終了のホーンが鳴るまで切れることはなかった
膝〜ももサイズのパワーレスな波のパワーをフルに引き出すボトムターン。原田のレールワークは群を抜いている
2本目の波で決めた鋭いカービングスナップ。「フィニッシュを決めるところで、波のパワー不足によりボードを返せずワイプアウトしてしまった。これをメイクしていればおそらく勝ち上がっていただろう」
脇田が逆転した1本。プライオリティが脇田にあったため、原田がこの波に乗ることは事実上不可能だった
見る人を魅了するサーフィンの追求。プロサーファー原田正規のこだわり
「くやしい。伊豆から沸々とやっていたから。こういうコンディションでも勝つには、続けるしかない。それは経験上わかっている」
準優勝した茨城戦を含む全3戦、原田は全力を尽くしてきた。それだけに、とにかく「くやしい」。試合前、サイズのある波で周囲を圧倒していた原田は、小波になることも想定して練習や体調管理を続けてきた。そして、見るものを魅了するサーフィンをすることに終始徹した。
「小波用の幅広く分厚いEPS素材※4のボードを使うのではなく、体を絞り、細く薄いPU素材※5のショートボードで勝負した」
小波勝負の場合、幅広く分厚い板を選んだほうがテイクオフもアプローチも楽だ。さらにアグレッシブに攻めるのではなく、ボードの浮力を生かして軽いアクションを入れながら長く乗ることで点数を稼げるため、有効な作戦とも言える。だが原田にはこだわりがあった。
「この小波でも違いを見せたかったのはボトムターンだ。シャープなボードをいかに深く沈ませ、その反発で波のトップをヒットする。ほかの選手とのその違いを見せたくて練習してきた。それくらい体をつくってきたから自信があった」
グランドファイナルが終了し、原田の最終ランキングは4位。7月から始まる新たなシーズン向けた挑戦は、もう始まっている。●
※4 サーフボードの素材となるポリスチレンの発砲フォーム。軽量で強度があるサーフボードになる。乗り心地は固め。浮力感が大きいため、小さな波と相性がいい。
※5 サーフボードの素材となるポリウレタンの発砲フォーム。サーフボードに使われてきた歴史が長く、波にフィットするいい具合のしなりがサーファーたちに愛されつづけている。
試合後の選手会では、クオリティが高い波での開催を熱望した原田
マスターズに出場するプロサーファーたち。参戦する選手も増え、年々盛り上がりを見せている
POSTED : 2025-05-02