PLAYERS : EMA KAWAKAMI
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
Xゲームズ千葉2024
Part 2
一昨年、昨年とXゲームズ※1ジャパンを観戦し興奮していたエマは、今や立派な招待選手。攻めの姿勢を崩さず、本番に挑んだ。
※1 さまざまなエクストリームスポーツを集めた世界最大級の競技大会。夏と冬の年2回開催される。
文:河上 竜平
カバー写真:ペドロ・ゴメス
編集:高橋 淳
いざ、幕張メッセへ
「今日から練習ができるよ」
Xゲームズ千葉2024の会場となる幕張メッセへ向かう日の昼前に知人からメールが届いた。神戸の自宅から車で行くつもりだったので、練習にはとうてい間に合わない。Xゲームズのバーチカルに慣れるためには少しでも多く滑りたかったが、しかたがない。予定どおり、ホームパークのジースケートパークで軽く滑ってから向かうことにした。そうして千葉に到着したのは夜。明日からの練習に備えて、早めに就寝した。
翌日、受付で手続きをすませてからアスリートラウンジに入る。あたりまえだが、有名ライダーだらけだ。その光景を前に、エマはよくXゲームズに出場できたものだとあらためて思った。当の本人はまったく緊張する様子はない。さっそく、友だちを見つけて遊んでいた。わたしはエマの親だが、スケーターではない。インスタグラムやユーチューブで見た有名人ばかりなので、どこか異世界に来たような感じだ。
写真:河上 竜平
記者会見エリアでインタビューを受けるエマ。ここでも初めての経験を積む
写真:河上 竜平
『ワイドナショー』の取材で来てくれた前園 真聖さん。サッカーファンとしてはとてもうれしく大興奮!
写真:河上 竜平
ライブをするために会場に来ていたジブラさんと一緒に。エマが初めてアメリカ行くときに聴かせていた曲のひとつは「ストリートドリームス」だ
本番に向けた練習。立てた作戦
練習は2日間だけで時間も決められており、短時間で合わせる必要がある。エマと相談し、まずはXゲームズのバートに慣れることが第一、あとはスロープを使ってみようと決めた。ベンチュラ大会と同じく、最初から練習に参加する選手もいれば、途中から参加したり、早めに切り上げるなど人それぞれマイペースで、なごやかな雰囲気だ。エマは有名ライダーの滑りを間近で楽しみながらおおむねどのトリックもメイクし、直近にあったイタリアのワールドスケートゲームズまで使っていたルーティンも比較的高い精度でメイクできるようになった。
しかし、2日目の練習から苦戦した。
「タイミングが合わない」
ステイルフィッシュロデオ※2がなかなか決まらないのだ。何本かは成功したが、本番で決められるかわからない状況だった。そして、エマと本番のルーティンをどうするか相談した。
「メイク率はかなり悪いけど、チャレンジする」
エマは安牌である今までやってきたルーティンより、挑戦を取った。わたしも賛成した。今のエマにとっては、X ゲームズという大舞台で、失敗を恐れずチャレンジすることが何よりも大切なのだ。
コンテスト当日。ウォーミングアップをすませてから、エマと話をした。
「ここまで来たら、攻めてミスってもしかたがない。とにかく楽しもう」とわたしは伝えた。エマはワクワクした様子でこう言った。
「決めたらヤバいなー」
※2 空中で体とボードを一緒に背中側へ1回転半させながら、後ろの手でボードを掴むトリック。
写真:SOUND OF SUNRISE
Xゲームズ千葉2024の会場は幕張メッセのホール内。広大なスペースにバート、ストリート、パークのコースが設営され、スケートボード、BMX、スリースタイルモトクロスの競技が行われた
写真:SOUND OF SUNRISE
Xゲームズ千葉2024のバート。練習が始まると、あっという間に人だかりができていた
写真:SOUND OF SUNRISE
練習開始。スロープに立つ小さな勇姿
写真:SOUND OF SUNRISE
トリックの精度を高めるために、短い練習時間で合わせていく。カメラを向けられることで受けるプレッシャーは、エマにはないようだ
写真:SOUND OF SUNRISE
階段でバートに上がる。上にいるのはギー・クーリー。エマは10歳にしてあこがれのトッププロと同じ舞台にいる
写真:SOUND OF SUNRISE
本番直前、バート脇に移動する巨大なカメラ
挑みつづけたステイルフィッシュロデオ
本番が始まった。エマに緊張はなかったが、いつも以上に真剣だ。コンテストは制限時間30分のセッション形式。滑る本数は決められていないが、だいたい6本ぐらいになる。
最初の900※3をはずしたが、これは想定どおり。力んで怪我をするリスクを避けるために、セッションの場合、1本目では900は乗りにいかなくていいと伝えている。次は900を決めた。そして、今回の最難題トリックのステイルフィッシュロデオだ。やはり思うようにデッキを掴むことができない。そのあとも900をはずすことはなかったが、ステイルフィッシュロデオをメイクできない。残り時間が少なくなってくる。エマに少し焦りが見えた。
「無理して乗りにいこうとするな。完璧に着地できそうなときだけ乗ること」
わたしは怪我のリスクを考慮してエマにそう伝えた。わたしの言葉が耳に入ったかはわからなかったが、エマは「とにかく成功させる」と言い残し、バートに上がっていった。
あっという間にあと1本しか滑れない状況となった。そのラスト1本もステイルフィッシュロデオに挑んだ。だが着地はしたものの、バランスを崩して転倒してしまった。何がなんでも乗ろうとしたのだろう。本番では、最後までステイルフィッシュロデオをメイクできなかった。エマは、今まででいちばんくやしそうな表情を見せていた。●
※3空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
写真:河上 竜平
ついに本番。観る側だった去年は、今年この上に立てるとは想像もしていなかった。
写真:河上 竜平
ジミー・ウィルキンス、トム・シャー、ギー・クーリー、エドアルド・ダメストイの前でエアーを決めるエマ。親として感無量の瞬間。10位という結果に終わり、1本だけでも確実なランを決めてからステイルフィッシュロデオにチャレンジすればよかったかなという考えもよぎったが、今後を考えると、この大舞台で最後まで攻める姿勢を崩さなくてよかったと思う。きっと強さにつながるはずだ
写真:SOUND OF SUNRISE
優勝はギー・クーリー。バートのベストトリックでも優勝し、2個の金メダルを獲得。圧倒的な強さを見せつけた
写真:河上 竜平
エマがいちばん好きなプロスケーター、ギー・クーリーと記念撮影。練習も含めて最初から最後まで攻めつづけたエマに、一緒に出場したスケーターたちみんなが「ヤバかった」と声をかけてくれた
POSTED : 2024-12-09