PLAYERS : EMA KAWAKAMI
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
Xゲームズ千葉2024
Part 1
Xゲームズ※1のベンチュラ大会に続き、千葉大会にも出場することになったエマ。海外を飛びまわるハードなスケジュールのなか、さらなる進化を見せるために練習を重ねる。
※1 さまざまなエクストリームスポーツを集めた世界最大級の競技大会。夏と冬の年2回開催される。
文:河上 竜平
カバー写真:ペドロ・ゴメス
Xゲームズジャパンへ、まさかの招待
Xゲームズのベンチュラ大会が終わって間もなく、大会本部からXゲームズジャパンへの招待メールが届いた。ベンチュラ大会は、トニーホーク主催のバートアラートで入賞して出場権を獲得したのだが、千葉で開催される日本の大会は招待制だ。まさか、エマに声がかかるとは思っていなかった。エマに伝えると大喜び。大会本部に即参加する旨を伝えた。
Xゲームズジャパンは今年で3年目を迎える。Xゲームズの日本開催を知ったときには夢のような話だなと思い、第1回はチケットを購入し、家族で観にいった。2年目は、過去のSTORY「Xゲームズ2023」にも書いたが、ハンパズ・ウィンバーグから招待チケットをもらって観戦。エマはこのときに「ぜったいにXゲームズに出る」と誓った。
そして3年目。エマの無謀とも思える願いは叶った。エマはいろいろなところで「Xゲームズにぜったい出たい」と言いつづけてきた。言霊は本当にあるのだと思う。どうすれば出場できるのか、わたしにはわからなかったし、もちろんエマもわからない。本場アメリカにすら行ったことがなかった。ただひたすら、うまくなるための練習を続けてきた。
写真:河上 竜平
キックフリップ360(インディグラブ)※2を練習するエマ。反対向きに着地するので難易度が高く、メイクできる人が少ない。エマがとくにこだわっているトリックのひとつだ
※2 空中で前足のつま先を使ってボードを蹴り抜き、背中方向に縦に1回転(フリップ)させながら、体とボードを一緒にお腹側へ1回転させ、デッキの前側を後ろの手で掴むトリック。
アクシデント続きの多忙な練習期間
出場が決まり、エマとどんなルーティンをやろうか相談をした。本番まで約2か月の練習期間がある。
「ベンチュラよりむずかしいルーティンやりたい。ステイルフィッシュロデオ※3やりたい。あとはキックフリップ360」
エマのこの言葉を聞いたとき、わたしは率直に無理だと判断した。キックフリップ360は着地が通常の反対になるためむずかしい。そしてステイルフィッシュロデオは3D回転をするうえに、後ろの手でグラブをするためボードを掴むタイミングが遅くなり、難易度と危険度がとても高い。だが、たしかにベンチュラで見せたルーティンの精度は高いので可能性はある。わたしは考えをあらため、エマにやりたいことをさせようと思った。
しかし、カナダのイベント、ジャッカロープがあったり怪我をしていたりと、思うように練習ができない日々が続いた。そしていよいよ本格的に練習を開始しようと思ったら、ワールドスケートゲームズイタリアへの出場が決定。そこでまずは、今までやってきたルーティンの精度を元に戻すことに専念したのだが、途中で体調を崩してしまった。復活後、すぐに10日間のイタリア遠征。ここでも不運なことに、負傷により会場での練習を断念せざるをえなかった。辛くもコンテストには出場できたものの、10日間で滑った時間は3時間程度。X ゲームズ千葉の日程は、イタリアから帰国して1週間後だった。
※3 空中で体とボードを一緒に背中側へ1回転半させながら、後ろの手でボードを掴むトリック。
写真:河上 竜平
海外を転戦すると、飛行機での移動や待ち時間、時差などによって生活のリズムが狂う。体調とメンタルの管理がむずかしい
大会1週間前、本格的に調整開始
エマにとって、X ゲームズ千葉に出場できることはとてもうれしいできごとだった。それだけに、練習に集中できないことに対するフラストレーションがかなり溜まっていた。海外で転戦しながら体調管理を行い、さらに進化していくプロのすごさをエマもわたしも痛感した。
練習を進めながら、わたしは「難易度を上げずに、いつものルーティンにするか?」とエマに聞いた。しかし、エマはあきらめなかった。
「いつものルーティンはアメリカとかイタリアでやったから、乗れへんかもしれんけど、新しいことにチャレンジする。」
イタリアから帰ってきたエマは、負傷した足首がまだ痛んだために3日ほど休養しながら体慣らし程度の練習をし、残りの4日で新しいルーティンに取り組んだ。結果、キックフリップ360はルーティンに入れるまでの精度に上げることはできなかったが、ステイルフィッシュロデオを入れたルーティンは4回に1回は成功するまでに持っていけた。ホームパークでこの精度なので、X ゲームズではどこまでやれるかわからない。むしろ怪我のリスクもある。そんな心配を抱きながら、会場がある千葉へと向かった。
写真:河上 竜平
「本番でぜったい成功させたい」と、ホームのジースケートパークでステイルフィッシュロデオを必死に練習。あこがれのショーン・ホワイトの得意トリックで、極めて難易度が高い。エマにとってまだ怖いトリックだ
写真:ペドロ・ゴメス
Xゲームズ千葉の会場にて。エマの途方もない野望「Xゲームズ出場」のためにサポートしてくれたたくさんの人たちに感謝の気持ちでいっぱいだ
つづく>
POSTED : 2024-12-02