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ワールドスケートゲームズイタリア

文、写真:河上 竜平

 

ウィングラムカップ2023バーチカルシリーズの結果により、エマはワールドスケートゲームズ※1への出場権を獲得し、イタリア・ローマへと向かった。今年2月にもテレビの撮影でイタリアへ行ったので、2度目のイタリアだ。

 

わたしにとって、イタリアはスイスの次に行きたいあこがれの国だった。でも一生行くことはないだろうと思っていたので、とてもうれしかった。

 

そして、今回のできごとでいちばんうれしかったのが、日本代表メンバーに選ばれたエマが日の丸のジャージを着たことだ。

 

国際的なコンテストは、当然ながら各国の実力ある有名スケーターが出場する。今回も、今まで練習してきた自分ができる精一杯のランをしようと、エマと決めた。

 

コンテストの前には公式練習がある。しかし最初の公式練習は開始してすぐに雨が降りはじめ、4本しか滑れず中止となった。

 

この練習中にアクシデントが起きた。得意の900※2でエマは転倒。意識はあったものの、痛さでなかなか起き上がれず、練習を中止せざるをえなかったのだ。その後、痛さは引いたのだが、念のためタンカに乗せられ、救急車で病院へ行くこととなった。

 

病院で検査の結果、異常なし。大きな怪我じゃなくて本当によかった。エマはすぐに戻って練習に参加したがった。でもコンテスト中の怪我だったために、会場で滑るにはワールドスケート国際連盟(以下、ワールドスケート)の許可が必要とのこと。練習はもちろん、大会への参加すらできるかわからない状況となった。

 

そこで、病院で診断書を書いてもらいワールドスケート国際連盟へ提出。しかし現地イタリアでは判断を下せないとのことで、ワールドスケート本部、そして日本サイドの判断を待つことになった。

 

現実的な話をすれば、このワールドスケートゲームズ出場のために、国内大会の予選で費用と時間を費やし、本線開催地イタリアへの遠征費用と時間を費やした。そして何よりも、エマはワールドスケートゲームズで自分の最高の滑りを見てもらいたいと、リスクを取って練習してきた。だからこそ、なんとしても出場できることを心から願った。

 

出場可能かわからない状況のまま、大会前日まで日程が過ぎた。みんなが練習している姿を見ているエマのとてもくやしそうな表情をよく覚えている。

 

その日、ようやくワールドスケートから連絡が入った。協議の結果、エマは出場できるとのこと! 一安心したが、練習は大会当日からという約束になった。

 

エマとルーティンについて相談した。本番直前の練習しかできないため、本来は公式練習で数日かけて合わせる予定だったルーティンを断念。ふだんから練習しているルーティンに切り替えた。

 

いつものルーティンとはいえ、バーチカルの形状が違う。合わせるのはかんたんではない。しかしながら、いつになくエマは集中力を発揮し、練習終了間際にルーティンを成功させた。

 

そして、本番。滑れる本数は3本。わたしは、1本でいいから決めて欲しいと願った。すると、1本目からまさかのフルメイクした。ほかのスケーターも関係者もエマが練習に参加出来ていない事を知っているだけに、歓声が上がった。

 

2本目には、さらに難易度を上げるべく、イタリアに来てからまったく練習していないステイルフィッシュ※3ロデオ※4にチャレンジ。みごとに成功させたが、後半に別のトリックでミスをしてしまった。最後の3本目は900の2連続にチャレンジした。残念ながらエマはミスしたのだが、大きな怪我のあとにもかかわらず、いつもどおり果敢に攻める姿勢にわたしは驚いた。結果は16位で予選突破とはならなかったが、練習ができていない状況を考えると満足だった。

 

わたしの当コンテストの見解としては、難易度が劣るトリックとエアーのコンビネーションでも、高さがあれば点数が伸びたスケーターが多かった。エマが年齢を重ねて体が大きくなれば、トリックの難易度とコンビネーションをキープしたまま高さを上げることは現実的に可能であり、より高く、ダイナミックなスケートができるはずだ。今回出せなかったトリックも踏まえると、十分に世界で勝負できると感じた。

 

 

※1 ワールドスケート国際連盟によって行われている、あらゆるローラースポーツ分野を含んだ国際的なマルチスポーツイベント。隔年で開催される。2024年は9月にイタリア・ローマで開催された。
※2 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。
※3 デッキのかかと側をテール側の手でつかむトリック。
※4 空中で体とボードを一緒に背中側へ1回転半させるトリック。回転の回数や向きは後出のフロントサイド540と同じだが、フロントサイド540は体とボードをプロペラのようにまわすのに対して、ロデオ540は野球のバッティングのように体を中心にボードを振りまわすため、より難易度が高い。

日本代表のジャージは家宝だが、子どもサイズがなかったので、かなりのオーバーサイズだった

大会会場があるピンチョの丘から望むポポロ広場。奥にはサンピエトロ大聖堂が見える

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病院の帰りに通った路地。日本人でここを通った人間は数少ないだろう。一生忘れない景色だ。今回のコンテストは、エマにとってもわたしにとっても、これまでとは違った意味でいい経験となった

POSTED : 2024-11-01