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Sリーグ開幕戦2024 Part 2

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MHASAKI HARADA

 

Sリーグ開幕戦2024
Part 2

 

Sリーグマスターズツアーの初戦、原田はプレッシャーをバネにして決勝戦へ。生まれ変わった日本のプロサーフシーンで実力を見せつけた。

 

文:高橋 淳
写真:飯田 健二

 

Part1はこちら>

小さくなる波、大きくなるプレッシャー

 

8月23日のオフを挟み、翌24日は準決勝戦が行われる。原田は5時半に会場入り。天気は回復したものの、波は昨日より若干サイズダウンして腰〜腹たまに胸くらい。小波仕様のツインフィッシュを持ち出し、原田はさっそく調整を開始した。

 

「思ったより波の面が固い。ツインじゃダメだな」

 

この日の戦いも、スワローテールのスラスターに乗ることを決める。マスターズのヒートはスケジュールの最後。夕方までの長い待ち時間、長女コアと試合観戦しながら選ぶべき波を見定めた。

 

「あぁ、しんどい」

 

ひんぱんにため息を吐く原田は、プレッシャーに包まれている。

おだやかな光に包まれた早朝の茨城・大洗海岸。波はサイズダウンしていった

遠く大海原から届くうねりを思い描き、ブレイクする波を見つめる原田。このとき、自身のヒートが行われるタイミングの潮や風のことも頭のなかにある

協議の末、準決勝戦がスタート

 

マスターズのヒート開始は16時。うねりが弱いうえにハイタイドと重なり、ショルダー※1が張らない。アクションを入れにくいコンディションを前に、明日の潮のタイミングがいい時間に試合を行う案が浮上してきた。そこで、選手全員とコンテストディレクターが集合してミーティング。結果、ヒート時間を延長し、25分で行うことに決まった

 

原田は2番目のヒート。オンショア※2が強まり、波は整っていない。ヒート開始のホーンが容赦なく鳴り響いた。バックサイドですばやく波に乗った原田はインサイドまで乗り継ぎ、4.50※3をスコア。まずまずのスタートだ。しかし、宮崎の東川 泰明、伊豆の今村 厚が立て続けにグッドスコアをメイクして原田は3位に。解説の脇田 貴之が状況を伝える。

 

「風の影響か、うねりが大きくなってきた。むずかしい波ですが、スコアが出はじめています」

 

細かくライディングを重ねていく今村を横目に、原田は流れるようなバックサイドのライディングでヒートハイエストとなる7.50を叩き出し、2位に浮上。そしてつかんだ3本目の波で、ついにトップに躍り出た。乗るべき波をじっと待ち、その波で確実にスコアを重ねた原田は、合計14.00という圧倒的な強さで決勝戦に駒を進めた。

 

 

※1 立ち上がろうとする波の斜面。
※2 海から岸に向かって吹く風。風が波頭を潰すため、基本的にはサーフィンに適さない。
※3 ライディング1本の最高得点は10点。Sリーグの大会ではヒート中のベスト2スコアの合計点で勝敗が決まる。

「じつはいちばん緊張した」というヒート前の登場シーン

準決勝戦の原田はハイポイントを連発。スタイリッシュかつパワフルなサーフィンで会場を沸かせた

ヒートが終わって出た言葉は「コアちゃん、ありがとう!」。今大会の原田の好調を支えたのは、ほかならぬ愛娘だ

プレッシャーを跳ね除け、ヒートを突破

 

大会最終日。風がやんで太陽が顔を出し、真夏の暑さだ。天気は最高。しかし、波は昨日よりさらにワンサイズダウンした印象。原田は早朝から練習を開始するが、ピークが若手プロで混雑していたせいか、数本で上がってきた。波の癖はもう十分につかんでいるから問題ない。重要なのは、マインドセット。海から上がってヒートを待つ原田は、機嫌がよかったり、ナーバスになったりを繰り返している。プロツアーのプレッシャーの大きさは計り知れない。決勝となればなおさらだ。

 

10時15分、決勝スタート。対戦相手は、千葉の先輩であり元グランドチャンピオンの牛越 峰統と河野 正和、そして準決勝戦でデッドヒートを繰り広げた今村 厚という手強いメンバー。ホワイトのゼッケンを身につけた原田は緊張の面持ちで花道を歩く。1年以上、追いつづけてきた舞台に立った。

 

原田は開始早々波をつかんだ。解説の脇田がうなる。

 

「バチーンという音が鳴りそうなヒット!」

 

全員がテンポよく波に乗るが、原田が1位のポジション。さらにフロントサイドで波に合わせて3マニューバーを入れたライディングに7.00がついた。続いて、河野がバックサイドでサイズのあるいい波に乗った。ソリッドな2発を叩き込み、8.75。トップの原田に対して3.50ポイント差に詰め寄る。ここまで、たった5分のできごと。熾烈な戦いだ。

 

うねりがシフトする、むずかしい波。残り15分。試合時間半分が経過した時点でも、原田がいぜんトップを走っている。前半から打って変わって、波のペースはスローになった。河野が波に乗り、バックアップを塗り替えてトップへ。原田に必要なスコアは5.96。十分に逆転可能だ。だが波は停滞。ジリジリとした神経戦が続く。

 

残り5分を過ぎたころ、ようやくセット※4が入った。プライオリティ※5を持つ原田がバックサイドでドライブの効いた2ターンを見せる。6.00のコールを聞いて、原田は「よし!」と大きく首を振る。

残り3分。プライオリティは河野に移行。このままいい波が来なければ、原田の優勝が決まる。時間との戦いだ。そこに、無情にもセットの波が来た。河野がきわどいセクションにクリーンヒット。この1発に7.00がつき、再逆転。そして、そのままタイムアップ。

海に浮かび、天を仰ぐ原田。河野の歓喜の雄叫びがビーチに響き渡った。●

 

 

※4 その日のなかでも大きなうねり。何本か連なって沖からやってくる。本数や周期はコンデションによって異なる。
※5 ヒート中、それぞれの選手に順番に与えられる優先権。ヒート開始直後のプライオリティ(優先権)が誰にもない状態で、最初に波に乗ったサーファーからプライオリティの順位がいちばん低くなる。その後、次のサーファーが乗るとプライオリティの順位が繰り上がっていく。

 

戦いにフォーカスし、練習中もキレたサーフィンを見せる原田

決勝戦直前の緊張した面持ち。今このときの波に、全身全霊を傾ける

緩慢なセクションも力強いターンで攻める。原田のサーフィンは終始冴えていた

試合終了のホーンが鳴った直後、海に身を沈め放心する。原田は最後まで集中力を切らさず戦い抜いた

勝利の喜びを全身で表現する河野 正和。マスターズ初優勝を果たした河野は、観戦する同世代のサーファーたちに向けてヒーローインタビューでこう語った。「何事もあきらめずにやるということを心に置いて、サーフィンを楽しんでください」

「いろんなプレッシャーを感じながらも、楽しかったよ。プロの世界は、覚悟しないとやっていけない。そこでがんばることができれば、自分が強くなる。さもなければ、迷って、弱くなって、陰に潜んでいかなきゃいけない。それだったら、覚悟を決めてやるしかない」と原田は試合後に語った。今シーズンのマスターズツアーは全3戦。現在総合ランキング2位の原田はグランドチャンピオンを狙う

POSTED : 2024-10-11